さてどうしましょう:
What should we do now ?

日本と世界の歴史散策


HOME > BookShelf > BookShelf1

千字で揺さぶる常識 OWL のひとりごと

lxi )古代日本「謎」の時代を解き明かす

2014.9.18


古代日本「謎」の時代を解き明かす


長浜浩明著、二〇一二年四月、展転社


古代日本史ファンを新たに生み出すエキサイティングな仮説


 古代日本の歴史?邪馬壹国の位置?大和朝廷と卑弥呼の関係?興味なく、何処でも良く、どうせ憶測!とあくまでシニカルだった。本書を読むまでは。
 大阪のビル建設時に膨大なボーリングデータが蓄積された。そのため古代大坂平野の地理は明らかになっていた。建築専門の著者は、古事記、日本書紀の記述を素直に読み、古地図と照合した。すると神武東征が史実として合理的な説明が可能だという。謎解きのキーは、他に黥面入墨(げいめんいれずみ)、春秋暦、偏見や既成概念による呪縛からの解放、そして常識の総動員だ。記紀、シナ、朝鮮半島の歴史書、考古学的な発見を総合的に論考すると、日本の古代史、日本と半島の歴史の絡みが、あざやかに浮かび上がって来る。これは面白い!と思えるほど。
 倭は日本とイコールではない。半島南部から北部北九州だった。倭の男性はみな顔に入墨していた。古事記によると、近畿地方の女性が訝しく訊ねた。珍しかったからだ。邪馬壹国の場所は筑紫平野南西部の山門。豊葦原とは貴重な褐鉄鉱を生む母なる葦原という意味。各地に埋められた広鋒銅矛(ひろさきどうほこ)や銅鐸は、葦が生い茂り褐鉄鉱が沢山採れることを祈った象徴だという。そもそも記紀の年代はそのまま西暦にしてはならない。古くは春秋暦が使われていた。そう計算すると他史料とバッチリ整合性が保てる。日本書紀の記者も春秋歴の存在が分からず、伝承通り愚直に記述した。闕史八代(けっしはちだい)の天皇も実在した。神武東征で日向から出兵した磐余彦命(いわれびこのみこと)が大坂に侵入し川を遡上。現地勢の抵抗にあい海に退却。幾多の困難を乗り越え、奈良盆地に足場を築く。神武天皇即位は前七〇年。その後の大和朝廷は武力によらず、各地有力者と姻戚関係を結んで勢力を拡大した。朝廷に朝貢しない熊襲、隼人、新羅を征伐した記録も、他の史料と整合性をもって読み解ける。また半島の新羅、百済、任那にあった諸小国も日本人の末裔で、言葉が互いに通じていた、と。
 かつて、記紀は神話で史料の価値なし!と捨て去られていた。まずは左翼的史観の呪縛から解き放たれることから全てが始まるという。古代史専門家は、記紀、シナ、朝鮮の歴史書を一切認めないか、内容を勝手に取捨選択していた。だが、古地理学の研究成果は動かし難い事実である。その土台の上に、記紀や周辺国の歴史書、考古学的な碑文などを総合的に読み解く。これは知的作業の醍醐味だ。著者の労による。すべてが解明されたわけではないが、ありがたいものだ。





▲ ページトップへ

lx )韓国人は何処から来たか

2014.9.11


韓国人は何処から来たか


長浜浩明著、二〇一四年一月、展転社


韓国人のルーツ、韓国語の成り立ちを冷徹に見つめる、これまでなかった有力な仮説


 朝鮮人は何処から来たか。正面から論じた本はない。論ずるまでもない。彼らは日本の誕生はるか前からいた。進んだ文化を持ち、日本の兄貴分だった。シナの文化は彼らの手を経て日本にやってきた。そう信じられて来た。だが科学的、論理的に検討を加えることで、定説の誤偽が明かされる。Y染色体DNAハプログループの研究、遺跡の数と種類、古代人の骨格、言語などを検討して著者は結論する。韓国人は日本人と北方シナ人の混血だった。韓国語は日本語とシナ語の混成語だ、と。本書は読みやすい。前二書では他説を細かく取り上げた。だが本書では最低限。大胆な省略が分りやすさに直結する。
 旧石器時代、半島はほぼ無人だった。遺跡は五〇ヶ所程度しかない。日本の遺跡数は三千〜五千ヶ所。単位面積あたりの遺跡数は、日本の百分の一以下。更にBC一万年〜五千年、ヒトの気配が半島から完全に消える。新石器時代人の流入はBC五千年頃。旧石器時代から連綿と今日に至る日本人とは大違いだ。無人の半島に日本から縄文人が渡った。縄文遺跡が現れ、その人骨の特徴は縄文人そのもの。韓国人には似ていない。BC二千年頃、縄文人の住んでいた半島に、北方シナ人が流入し始める。
 歴史時代に入る。新羅、百済は日本の臣民だった。新羅が裏切りシナ軍を招き入れる。三国時代の後、蒙古人、満洲人が侵入する。置換に等しい混血を経て現代の韓国人となった。Y染色体研究からも分る。韓国男性には、日本人に特徴的なDやO2b1、蒙古人のCやK、シナ人のO3が混在する。日本、北方シナ、蒙古から半島への流れを想定せずに説明できない。日韓の言葉は八世紀末まで通じていた。韓国の公式見解でもある。三国史記や日本書紀における、双方の登場人物が通訳なしで会話できた例を挙げる。なぜ通じなくなったか?北からの侵略を受け、意図的に語彙を置換したからだ。ただし言葉の基本は縄文語や上代日本語。構造は変えようがない。似ているが単語は通じない!となったわけだ。韓国語は「日本の文法を母とし、シナ人の音を父として出来上がった高々五百年の歴史しかない混合語」と言える。
 後半で韓国の近親婚の歴史、女性蔑視と蛮習、現代に通じる課題が指摘される。そこまで書くか!と驚く。例えば、パーソナリティ障害や統合失調症の発症率。近親婚の結果としているように読める。心得ある者はついて行けない。科学的、論理的な検討から逸脱してはいまいか?





▲ ページトップへ

lix )韓国人による沈韓論

2014.9.10


韓国人による沈韓論


シンシア・リー著、二〇一四年九月、扶桑社





<都合により公開を中止しました>








▲ ページトップへ

lviii )竹林はるか遠く 日本人少女ヨーコの戦争体験記

2013.7.18


竹林はるか遠く 日本人少女ヨーコの戦争体験記


ヨーコ・カワシマ・ワトキンズ著&監訳、都竹恵子訳、二〇一三年七月、ハート出版


ようやく実現した邦訳。お薦めの一冊です


 一九四五年七月二十九日夜遅く、十一歳の少女川島擁子(ようこ)は、姉好(こう)と母に連れられ、住んでいた朝鮮半島咸鏡北道(かんきょうほくどう)の羅南(ラナム)という街を脱出する。そこは満洲との国境に近く、満洲で仕事をしていた擁子の父親と家族全員が共産ゲリラに命を狙われていた。他方、軍需工場に動員され留守だった兄淑世(ひでよ)は、仲間たちが虐殺される中をくぐり抜け、三人の後を追う。親切な朝鮮人農夫一家に生命を助けられ、臨津川(イムジン河)を渡り南へ脱出。
 病人でいっぱいの列車に共産軍兵士が乗り込んできた。擁子たちは医療スタッフにかばってもらい助かる。乳飲み子が死に遺体をやむなく車外に放り出され、半狂乱になる母親の泣き叫ぶ声を聞いた。妊婦の出産があった。看護婦が赤ん坊の産湯として、簡易トイレの尿を使う姿も見た。京城の手前70km地点で列車は飛行機の急襲を受け、母娘三人は線路伝いを歩く。渓谷にかかる鉄橋を渡る。共産ゲリラに襲われ、間一髪のところで爆弾が破裂し命拾いする。その際に擁子は耳と胸を負傷。ようやく京城に到着し病院で傷の手当を受けた。
 貨物車両に乗り釜山に到着。そこは独立を祝う祭りの最中だった。日本女性だとわかると韓国人男性数人に取り囲まれ、路地裏に連れて行かれ強姦された。年頃の好は母に髪の毛をバッサリ切ってもらい、胸に布を巻いて男性の格好をした。擁子の髪型もハリネズミのようにし、トイレは好と共に男子用を使った。三人は何とか守られ、福岡行きの船に乗り込み、やがて日本の大地を踏むことができた。道中も日本に着いてからも、ゴミ箱の食べ物で飢えをしのぐことがあった。擁子と好が肩を寄せ合いながら健気に暮らす様子は涙を誘う。
 擁子は後に米国人と結婚し渡米。一九八六年、この自伝小説を英語で出版。本書は「第二次大戦の知られざる一面」と米図書館協会の推薦と賞を受け、公立中学校の副読本に指定された。すると在米韓国人の反対運動が起こる。正しい歴史認識を!と求める人々は、自国民に日本人を虐殺しレイプした人がいるという記述が容認できない。だが本書に反韓国の意図などない。反戦の著作だ。本作品が未邦訳だったのは何故か。私は英語版を評した時、韓国系住民に叩かれ必要以上の配慮をしたのか?と書いたが、巻末の「日本語版刊行に寄せて」を読み、辛さを推量できた。失礼を詫びたい。彼の地に自生の竹はなく、著者の母が日本の竹の根を植えて小さな林にしたという。タイトルにも思いが込もっている。必読の書。




▲ ページトップへ

lvii )日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか

2013.7.12


日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか


黄 文雄著、二〇一二年八月、徳間書店


通説と違う日本の姿がマクロの視点で浮かび上がる


 日本と中韓は全く違う。漢字、仏教、儒教などの要素は共有したことがあるだけ。なぜ相互理解できないのか?その理由を著者がまとめた。
 近代国民国家は法治主義が原則。だが中国に法治はない。人治のみ。大きな裁判は上の命令を聞き、普通の判決は金の多少で決め、小さな犯罪だけ法によって裁くという。対して日本人は聖徳太子の時代から遵法精神の塊だ。著者は両国人の特徴をまとめる。中国人は「詐盗争私汚」つまりウソをつき盗み、人と争い個人の利益を追い求め、汚いことも辞さない。日本人は「誠施和公浄」つまり誠実で人に施し、平和を好み、公共心に富み汚いことを嫌う、と。
 韓国人は何でも他人のせいにする。米中露には通じないが、日本のせいにするとすぐに反省し謝罪してくれる。気持が収まる。反日ほど得なことはない。そもそも従軍慰安婦は、巫妓、宮妓、営妓など東亜史における朝鮮名物だった。強制連行や国民売却は、むしろ朝鮮政府が行なっていた。李朝末期は財政破綻の原始経済社会だった。日韓合邦で救われた。日本の支援で社会の土台が完成。戦後の韓国も、日本と不即不離だったからこそ発展した。北朝鮮はどうか?一目瞭然だ。
 戦後日本では、日本人は極悪非道を尽くし、全中国人民を敵に回したと教育された。だが事実は違う。中国は分裂状態で、日本は親日派の南京政府と交渉。決して全中国と闘ってはいない。戦前、台湾人は治めにくい民だった。韓国はその逆で反日闘争が殆どなかった。警察も大部分は朝鮮人が起用された。その数も平均して台湾の半数以下。韓国人は親日だったのだ。
 ドラッカーの見解も紹介する。「人は日本の西洋化を論ずる。だがそれは西洋の日本化だった。日本は理論、制度、手続きの一切を輸入した。それらのものを自ら育んできたシステムと構造…に組み込んだ。明治維新の成功は、西洋の日本化という視点によってのみ理解が可能」だと。東亜の近代化も日本化の波だ。十九世紀末から台湾、朝鮮、満洲と広がり、戦後もNIES、ASEAN、改革開放の中国につながる。二〇世紀は日本が欧米に挑戦し歴史を作った。日本人の世紀だった。数百年に及ぶ西欧植民地が大戦後に独立した。実は、中韓は日本が羨ましい。日本なしに生きられない。いくら日本を貶めても、世界はどちらが正しいか見抜いている、と。
 通説とは全く違う日本の姿。常識が試される。私たちは日本的な美意識を追求し続ければ良いだけなのだろう。参考になった。




▲ ページトップへ

lvi )こうすれば日本はもの凄い経済大国になる

2013.7.8


こうすれば日本はもの凄い経済大国になる


高橋洋一著、二〇一三年六月、小学館新書


本来アベノミクスの矢は三本ではなく一・五本。なるほど!分り易い解説本だ


 政策提言を行っている著者がアベノミクスの本質を易しく説く。そのキモはマクロ経済学だ。中央銀行が供給する通貨の総量(マネタリーベース)を増やすと、半年以内にインフレ予想率が高まる。実質金利が低下する。半年から二年経って輸出、消費、設備投資が増加する。実体経済が改善し、現実のインフレ率と賃金が上がる。以上の過程で株や不動産など資産価格が上昇し、為替は円安になる。重要なのは最初の大規模金融緩和による通貨総量増加である。
 日本経済にはデフレ脱却が欠かせない。二%前後のインフレターゲットが実現できれば、全体として失業率が下がり賃金が上がる。アベノミクスは市場マインドをデフレからインフレ予想へと見事に転換した。経済政策の正しさを実感するには最低二年かかる。自分の目が届く半径一・五mでマクロ経済を判断すべからず。実例を挙げる。賃金上昇率がインフレ率を上回ったかどうかで判断すると、マイルドなインフレ時代の一九七一〜九四年は二一勝三敗。デフレの九五〜二〇一一年は五勝一二敗だった。
 また矢は三本ではなく一・五本が正解と強調する。金融緩和一本で財政出動〇・五本。公共事業すべてが不要ではない。充分な金融緩和下では財政政策に一定の効果がある。効率の良いものだけを選べ。ゆえに〇・五本と数える。だが成長戦略はミクロ経済学に属する。矢とはなりえない。企業は各々の努力とイノベーションでのみ成長する。官僚には民間経済など分らない。民間に任せるしかない。成長戦略が失敗しても官僚は責任をとらない。彼らの成長戦略は天下り先確保でしかない。規制緩和だけで十分だ。
 日銀は官僚組織で無謬性の塊である。間違いの存在自体を許さない。無謬性維持のため過った俗説が喧伝される。例えば「日銀は適切な金融引き締めでバブルを退治した」という一九九〇年前後の話。だが物価は上昇していなかった。日銀の金融引締めによりマネーストックが減少。長いデフレの始まりとなった。当時の金融引締めは過りだった。バブル退治どころか日銀は日本経済をダメにしたのだった。アベノミクスによる経済復活が日銀理論のウソをあぶり出したわけである、と。
 なるほど明快だ。リフレ派は少数。多数派の攻撃はやまない。少数派でも正論なら断乎として選び取る。政治の役割だ。アベノミクスの真価は二〇一四年暮れまでに証明される。持ち堪えよ。日本経済復活の最後の機会を逃すな。読み易い納得の一冊。




▲ ページトップへ

lv )よくわかる慰安婦問題

2013.7.5


よくわかる慰安婦問題


西岡 力著、二〇〇七年六月、草思社


「反日日本人」は著者の造語。彼らの反日執念と戦うための必読書


 慰安婦問題を調べることになった著者は、驚くべきウソの国際ネットワークを発見する。本書はその足跡をまとめたものだ。奴隷狩りのような慰安婦徴用を行ったと韓国にまで行って謝罪する職業的ウソつき。自らキーセンに売られたと話す老女を「挺身隊として強制連行された慰安婦」と紹介するウソつき新聞記者。ウソとわかっても訂正しない無責任新聞社。大金二万六千円を貯めた老女の証言で日本を訴える厚顔無恥な弁護士。国連人権委員会に毎年出向き「慰安婦は性奴隷」と報告書に書かせた自虐的NGO活動家。すべてが日本人だ。著者の造語「反日日本人」は広く使われることになる。
 彼らのウソを著者らは暴く。政府もマスコミも公文書や証言を徹底的に調べた。結論はこうだ。挺身隊は慰安婦と関係がない。公的機関による強制連行の証拠はない。吉田と原の加害証言に信憑性はない。だが政府は河野談話を発表し広義の強制性を認めてしまう。中学歴史教科書に従軍慰安婦の記述が載る。朝日新聞などは強制連行に言及しないものの広義の強制性に逃げ込み、著者らへの攻撃を続ける。
 一九九六年、国連人権委員会はデタラメな報告書を出す。ウソの吉田証言が根拠だった。日本は国際的に非難を受ける。第二次世界大戦中、少なくとも十数万の朝鮮の女性を拉致、強姦し、性奴隷にした…その責任を回避し事実さえ否定する…理解しがたく不愉快だ。米保守派の一部も言う。広島・長崎の原爆投下は正しかった…なぜならあの瞬間にも慰安婦へのレイプは続いていた…それを止めるのに原爆は有効だった。なぜこうなったのか?それは日本が反論しなかったからだ。
 ソウル大学の安教授らは元慰安婦四十数人から聞き取り調査した。裏取りができたのが十九人。そのうち権力による強制連行を言う人は四人。うち二人の場所は戦地ではなく公娼のいる遊郭だった。残る二人も訴状作成時は強制連行を証言していない。そして誰もいなくなったのである。安教授の立場は明快だ。韓国人でさえ信じていない。著者は述べる。アメリカ人もきちんと説明すればわかってくれる人たちだ。だが反日日本人は詭弁を弄して日本を貶め続けている。その反日執念こそが私たちの敵だ。彼らがいかにひどいウソをつき続けてきたか!それを事実に基づきキチンと国際社会に訴える。そうすれば私たちは絶対に勝てる。なぜなら彼らはウソつきだからだ、と。著者の正義の憤りと日本への愛が感じられる。必読の書だ。




▲ ページトップへ

liv )だから、日本人は「戦争」を選んだ

2013.6.28


だから、日本人は「戦争」を選んだ


岩田 温著、二〇一二年十二月、オークラNEXT新書


日米開戦に絞り戦争を選んだ理由を述べる。これに支那大陸での憤りも加わる


 日本人の多くは近現代史をネガティブに見る。ナチスと同様に人々を残酷に殺戮した。恥ずかしい。アジアに謝罪し続けるべきだ、と。だが日本はナチスのような残虐行為に手を染めていない。筆者は問う。我々の父祖は何の理由もなく闇雲に戦争を始めたのか?日本の加害性を殊更に強調する侵略論の他、日本を被害者と強調する陰謀論、軍人の驕りによる暴発論など諸説あるが、なぜ開戦に踏み切ったのか説明がない。それを積極的に問い本書にまとめた。
 日本の指導者には、欧米の植民地にはなるまいとの強い決意と自尊心があった。日露戦争で支援してくれた米はその後反日に転じ、排日移民法などを成立させる。有色人種に対する差別が公然と存在していた。日本人は凄まじい憤りを覚え、人種差別そのものに憤りを燃やす。それは形を変え、国際連盟設立時に人種差別撤退条項として提案された。多数決で可決されたが、議長ウィルソン米大統領により採用が見送られた。この大きな流れの中で日米戦となる。
 アジアに民族自決権がないのは、永遠に西洋の奴隷になれということ。大東亜戦争の目的は明確、東洋の解放、建設、発展だ。アジアが植民地たる地位に甘んずる時機はすでに過ぎ去った。国民、知識人の多くが対米開戦を支持。米国人が民主主義の大義で戦ったのと同様に、日本人にも大義があった。勿論その中身は甚だ疑わしかった。軍人の中に横暴で冷酷な人々がいた。命令に背く人々を平手打ちにするなど暴力が横行した。掲げる大義と実際の行動との間に乖離があった。
 民主主義擁護を唱える米国も有色人種に対する差別を抱えていた。双方の大義に欠陥があった。だがビルマの指導者バーモウは述べる。帝国主義と植民地主義の終わりを運命づけた日本の太平洋および東南アジアでのめざましい勝利、戦時中、日本が設立を助けた民族の軍隊、それがアジアの多くの地域で生み出した新しい精神と意志、アジア精神の不可侵性は、歴史の総決算の中に残るだろう、と。
 著者は十六世紀のイベリア半島国家の戦闘的植民地戦略や奴隷貿易問題と、それに直面した秀吉らの伴天連追放令や禁教令にも触れる。人種問題の根深さを語り、秀吉や徳川幕府による二百数十年に及ぶ残虐なキリシタン迫害行為を正当化しているように見える。その点は気になるが、他はバランスがとれた記述だ。なぜ日本人が戦争を選んだのか?歴史を単純な善悪で見ず、同時代的に解釈をする試みには賛成である。




▲ ページトップへ

liii )嘘だらけの日中近現代史

2013.6.5


嘘だらけの日中近現代史


倉山 満著、二〇一三年六月、扶桑社新書


負けた理由を探るべし。中国の巧みな情報戦と稚拙な日本外交を指摘する


 のっけから断りが入る。本の題名がいきなり嘘。中国に近代などない。あるのは独裁の古代と殺戮の中世だけ。未だに近代国家ではない。中国という名前も嘘。中国何千年の歴史なぞ、支那大陸に人が住んでいた記録が何千年か残っている、くらいの意味でしかない、と。中国理解の三つの法則は、1)力がすべて、2)陰謀でごまかす、3)かわいそうな人たちで、ただひたすら殺伐とした国だという。わずか六十年の歴史の国に、日本人は意味不明な感情移入をし莫大な損害を被っている。治療の必要がある。相手のスッピンの顔を見て、腐れ縁の悪女から抜け出す。これが本書の目的だ、と。
 中国のプロパガンダとは、日本の中国研究者に絶対使えない学術用語だという。使うと入国拒否にあい必要な資料は閲覧禁止。日中友好を謳った研究費も貰えない。ゆえにまともな研究はできない。これが同じ手口で日本が何度も負ける理由だ。筆者はひとり帝国陸軍を悪者にする立場を採らない。日本は何も悪くなかったという見方も不毛だという。まず当時の大陸の状況を明らかにする。そして、満洲事変後や日支事変の発端において、日本の政治、外交の失敗を具体的に指摘する。
 満洲事変が起きる前、日本は一方的な被害者だった。ところが加害者として糾弾される立場になってしまった。世界には「古い封建的軍国主義の日本が、若い成長期の民主主義国である中国を侵略している」といった宣伝がばらまかれた。満洲事変勃発の翌年に起きた五・一五事件後の外相内田康哉が失態を次々重ねた。連盟を脱退し国際的に孤立したのは歴史的必然でも何でもない。致命的な失政だった。
 反蒋派は大陸在住日本人にテロを行った。中国人には外交など単なる政治の道具だ。いつも内輪もめが大事。外国への迷惑や人民の被害など何でもない。そんな中、反蒋派が盧溝橋事件と通州事件を起こした。日本の世論は止まらなくなり暴支膺懲(ぼうしようちょう)が合い言葉になる。そこへ近衛首相が陸軍に圧力をかけた。南京を目前に進軍を止めて和平交渉すれば良かったのに、對手(あいて)とせずとやった。近衛と側近が大日本帝国を滅ぼしたのだ、と。
 この内容は歴史専門家には書けない。世界史に詳しい人が日中関係史を書く試みだ。成功だろう。自民党内も含め、親中派に政権を握らせたらどうなってしまうのか?国益をめぐる心配の種は尽きない。日中平和共存など幻想。国の一新を担う人材は全国の私塾で育てるべしという。参考になった。




▲ ページトップへ

lii )読む年表 中国の歴史

2013.5.17


読む年表 中国の歴史


岡田英弘著、二〇一二年二月、WAC出版局


常識を超えた中国史。歴史はこういう大局観から記述しなくては!


 中国史をこんな形で記述するとは!その自由な発想に驚く。マルクス主義発展的歴史観の束縛から離れ、虚構の民族国家五千年説を排する。たった二千二百年間、秦、漢、唐、元、明、清など異種族王朝が興亡しただけ。日本人は考える。中国は漢人の民族国家だ、と。だが漢族とはどの少数民族にも属さないという以上の意味はない。本書の中国を日本と同じ概念と考えてはいけない。中国という国家は二十世紀までなかった。その領土も皇帝の血筋もそこで暮らす人々も、時代ごとに大きく変化してきた。血や言語、民族のアイデンティティも存在しなかった。
 歴史学者の筆者は「漢字という表意文字の体系を利用するコミュニケーション…が通用する範囲が中国文化圏であり、それに参画する人々が中国人」と述べる。その時代区分は何と次の五つである。秦の始皇帝の統一前までが中国以前、随による再統一までが中国第一期、元による南北朝終焉までが第二期、清朝までの第三期、日清戦争敗戦から始まる中国以降の時代。
 中国人の歴史観では、北方の蛮族が中国に入ると偉大な中華文化に感化され、やがて吸収され消滅する。だが実は話が逆だ。北方民族に征服されるたび、漢人は北アジア文化に同化した。満洲人が清朝を建てると、漢人に辮髪(べんぱつ)を強制。拒否すると首を刎ねられた。満洲人の服装は禁じられた。憧れても着られなかった。清朝末期、ようやく漢人に満洲服がゆるされた。漢人女性は大喜びで旗袍(ちーぱお)チャイナドレスを着た。いまも中国人は死者に清朝官服を着せる。死ねば念願の満洲服が着られる。それほど中国は満洲化したのだ。
 露の南下を恐れた日本は、朝鮮の独立と近代化を求めた。他方、清仏戦争で南越宗主権を奪われた清朝は、関心のなかった朝鮮を支配下に置く。東学党の乱を機に両国は軍隊を半島に送り日清戦争となる。清朝は敗北。衝撃は深刻だった。中国の伝統的システムはもう通用しない。栄光ある孤立の時代は終焉。日本型の近代化路線に乗り換えた。日本で既に漢字文化になじむよう消化された欧米システムを採用。既存の漢語体系は全面的に放棄され、和製漢語を基礎とするシステムに替わった。現代漢語の起源だ。ここに中国の歴史は独立性を失い、世界史の一部、それも日本を中心とする東アジア文化圏に組み込まれた。一八九五年が分岐点だ。
 中国史上の出来事が淡々と既述される。これまでの常識とは違う見方で隣国の歴史と向き合える。そんな良書である。




▲ ページトップへ

li )それでも、日本人は「戦争」を選んだ

2013.5.13


それでも、日本人は「戦争」を選んだ


加藤陽子著、二〇〇九年七月、朝日出版社


日本人が「戦争を選んだ理由」は書かれていないように思われる


 筆者が中高一貫私立男子校に出張講義した。そして出版されたのが本書だ。生徒に質問を投げ、当事者の立場で答えてもらう。インタラクティブな講義となり成功だったのだろう。例えば、9.11の米とかつての日本に共通する戦争の感覚とは何か?戦争は相手国の最も大切な社会基本秩序に変容を迫ること。敗戦で変更を余儀なくされた日本の原理は何か?レーニンの後継者としてトロツキーを指名しなかったのは何故か?西郷隆盛のようなカリスマ的リーダーを政府から遠ざけようと導入した考え方は何か?ローズベルトは敵の無条件降伏にこだわった。彼が第二次大戦終結時に誤用した歴史的出来事とは何か?また、これらはどんな結果を招いたか?など。
 次のようなマクロの話は面白い。日中戦争前の一九三五年、胡適(こてき)は主張した。中国は日本に叶わない。米ソを日本と戦わせる以外にない。そのため中国は、日本との戦争をまず正面から引き受けて二〜三年間負け続けよ。これを「日本切腹中国介錯論」と呼ぶ。対して、汪兆銘(おうちょうめい)の選択は次の通り。胡適の言うことはよくわかる。けれども、そのように三〜四年にわたる激しい戦争を日本とする間に、中国はソビエト化する。中国は日本と決定的に争ってはダメ。争うと国民党が敗北し共産党の天下になる。こうした見込みをもって日本と妥協する道を選んだ。
 歴史を学ぶ意義は次の通り。「与えられた情報のなかで、必死に過去の事例を…思い出し、最も適切な事例を探し出し…て用いることができるようにしたい」「私たちが如何に生きるか、何を選択してゆくか最も大きな力となる」と。日独を比較するデータも、いつもとは違う見方から紹介する。独軍の米兵捕虜死亡率一・二%に対し、日本軍の米兵捕虜死亡率は三十七・三%。自国兵さえ大切にしない日本軍の性格が捕虜虐待につながった。敗戦間近の国民摂取カロリーは一九三三年の六割だった。対して独は三三年の一〜二割増だった。配給食糧だけは絶対に減らさないようにしていた。一つ一つ資料を基に、引用を紹介して学術的な基本姿勢を崩さない話し振りに見える。
 ただ筆者は、総じて日本人の行動を中心に紹介する。なぜ日本人がそうしたのか、引き金となった相手側の記述が少ない。そのため因果関係は分かりにくい。結果として日本の理不尽さがより記憶される。あらかじめ決めた結論に沿う事実を意識して多く選んでいる、と指摘されてもやむを得ない内容となってはいまいか。




▲ ページトップへ

l )真実の満洲史 1894〜1956

2013.5.10


真実の満洲史 1894〜1956


宮脇淳子著、二〇一三年四月、ビジネス社


満洲史は日本史の一部。満洲の歴史に光を当てる作業は始まったばかり


 前作「真実の中国史」の続編。「そもそも論」がいつも面白い。中国人の歴史は、マルクス主義に結果中心史観を足したものだ。必ず結果から過去を判断する。成功すれば正しい。失敗した奴は悪い。中国は正義で日本はすべて悪かった。日本の満洲進出は明治時代からの謀略。事件をすべて書くと、予め決めたストーリーで説明できない。それで日本がしたことに絞る。すると先にひどいことをされ、対抗上日本人がそうせざるを得なかったという説明がなくなる。こうして日本人がただただ残虐な性格だったことになる。これが彼らの「正しい歴史認識」だ。だが、こんなものは歴史と言わない。歴史とは因果関係を明らかにすることである。歴史では道徳的価値判断をしてはいけない。判断が入ると政治になる。歴史は法廷ではない、と。
 筆者は続ける。中国王朝は人間を支配していた。土地の支配は考えなかった。属人主義と言う。一九一七年まで、満洲が中国の一部とは誰も思わなかった。だがコミンテルンが満洲は中国だと煽り、排日運動をやらせた。満洲事変を経て満洲国ができると、英米露に対する中国人の反感はすべて消え「日本人だけが悪い」となった。日本でも戦後占領下で左翼系の人たちが要職に就き、教育界も影響下に入った。彼らはコミンテルンを悪く言わず、日本だけが悪者になる歴史を書いた。
 もし日本が日露戦争に負けていたら、満洲はロシア、朝鮮はコリヤスタンだったろう。何もない満洲を開拓し、投資し、近代化させたのは日本人だ。満洲国がなければ今の中華人民共和国は近代国家になっていない。改革開放までの四半世紀の間、満洲の遺産で中国は近代化した。台湾、朝鮮、満洲史は日本史の一部だ。日本列島以外は日本ではない?それは日本人の頑迷な世界観だ。日本語を話し日本文化が好きな人たち、日本で教育を受けて精神は日本人と変わらない人たちを、血筋だけで差別してはいけない。二十世紀の歴史は、日本がまず日露戦争でそれまでの白人絶対の歴史を変え、満洲事変でも世界の仕組みを大きく変革した。第一次世界大戦以外は、すべて日本のせいで世界史が動いたのだ。実は日本はアジアの超大国だったのだ、と。
 満洲に歴史の光をあてる「世界史のなかの満洲帝国と日本」より柔らかく読みやすい。ただ、まず結果ありきの、日本悪しのストーリーで歴史を書く人々が実名で批判されている。ここまで言わないと判らないのか!という嘆きを見る思いだ。




▲ ページトップへ

il )中国に立ち向かう日本、つき従う韓国

2013.5.8


中国に立ち向かう日本、つき従う韓国


鈴置高史著、二〇一三年二月、日経BP社


激動の東アジア、日本のこれから


 日本がハッキリさせるべきことは何か?米中の間でどのように振る舞うかだ。本書はそれを問うている。我々は思っていた。韓国は米国の忠実な同盟国。同じ自由主義陣営の仲間だ、と。だが、隣国はすでに中国につき従うことを決めた。米国は日米韓共同で北や中国に対峙することを望んでいる。他方、中国の狙いは韓国の中立ないし米韓の離反だ。日経BPオンラインのコラム「早読み 深読み 朝鮮半島」をまとめたのが本書である。筆者はその中で、韓国の一連の変化を最初に浮き彫りにしたのだった。
 何より朝鮮半島は何千年ものあいだ中国の属国だった。米から離れ日本に敵対するのは当然のことらしい。日本は中国の支配に甘んじるのに慣れていない。ちょっとの恫喝で言いなりになった民主党政権下、中国の残虐な本性を我々は見た。尖閣諸島、沖縄を狙う中国は、今後も徹底的に日本に敵対するだろう。筆者は次のように語る。これからはイデオロギーではなく地政学の時代になる。冷戦時代と違い国益追求が露骨になる。日本は中韓に対してより強い態度をとらざるを得ない。中国の脅威は日本の死活がかかるからだ。日本のリベラルは中韓と一緒に「日本が右傾化した。まだ過去への反省が足りない」と大騒ぎするだろう。だが世界全体が「国のことをより考える」時代なのだ、と。
 反日国家に工場を出すな、と一九九〇年代から主張している金型メーカー社長伊藤澄夫氏も言う。安全な国に投資すべきだ。わざわざ危険な国を選ぶことはない。東南アジアの人々の日本に対する親密感や信頼は、日本人が考える以上。彼らとはうまくいく。ここが中韓と完全に異なる。日本人は物事を丸く収めるために何でも謝ってしまう。これは絶対にやってはいけない。世界の常識だ。絶対に安易に中国に妥協してはならない。日本人へのさらなる暴行を誘発する。東南アジアの人々の日本への敬意を裏切ることになる、と。
 二〇一二年、当時の大統領李明博が竹島に上陸し、日王が韓国を訪問したいのなら跪いて謝罪すべきだと言った。思えばその時、韓国を見る目は一変した。温和な日本人に「許せない!」と思わせた。我々を怒らせるに十分な言動だった。どんなに懇願されても行かせるものか、と。韓国の裁判所は靖国放火犯の中国人を日本に引き渡さず、対馬のお寺から盗んだ仏像を日本に返却しないと決定した。隣国がテロ、犯罪支援国家だと明らかになったのだ。これから日本はどこへ?必読の書だ。




▲ ページトップへ

xlviii )あっぱれ!朝日新聞(笑)

2013.5.6


あっぱれ!朝日新聞(笑)


勝谷誠彦著、二〇〇九年九月、WAC BUNKO


「天に唾する所作」について、目くじらを立てずに指摘させていただくとこうなる


 築地をどりとは?「踊り子全員が左に傾きつつ旋回し、土下座を繰り返す…日本舞踊の流派。東京築地の朝日劇場で定期公演を行っている。論説主幹や、天声人語子らは名取。主催朝日新聞社。中国政府、韓国政府後援」なのだそうだ。
 一例は次のとおり。「ちょっと毛色の変わった舞台を見せてもらった…演目は<東京大空襲、国を提訴>。まず、観客はここでアッと大声を上げるだろう。東京大空襲といえば、あの大東亜戦争で、非戦闘員を計画的に虐殺した、米軍による戦争犯罪である...米国を提訴ならわかる。しかし、自分の国を提訴するとは。芸事は驚きが肝心だ…<旧日本軍が中国・重慶で繰り返した爆撃などが米軍の作戦に影響を与えた点についても責任を明確にしたい考えだ>。ああ、支那も泣け、亜米利加も叫べ。なんという凄まじい所作であろう…深々と支那に頭を下げ…でんぐり返しをして、米国にも土下座をしたのである」。
 別のもある。「二十年あまり前に築地をどりが草莽の中から発掘し、丁寧に丁寧に保護し育成してきた『従軍慰安婦神楽』が、なんとワシントンのアメリカ議会下院外交委員会の大舞台を踏んだ…<吉田清治氏は八三年に『軍の命令により朝鮮、済州島で慰安婦狩りを行い、女性二百五名を無理やり連行した』とする本を出版していた>…<朝日新聞などいくつかのメディアに登場したが、間もなく、この証言を疑問視する声が上がった>。うわあああ。これが、噂の築地をどり『他人事の所作』なのか。オノレがさんざん吉田の肩を持っておいて、客観的事実のように踊ってのける凄さ。一方で<疑問視する声が上がった>と、秦(元拓大)教授などの名前も努力も紹介せずに、あたかも自然現象として、嘘がバレたかのように書く力業」「<マスメディアで繰り返し取り上げられるようになったのは…元慰安婦らが…日本政府に補償を求める訴えを東京地裁に起こした前後からだ。とくに、原告の金学順さんが…実名で登場し…大きな反響を呼んだ>。まずさらっと<他人事の所作>が舞われていることに注目したい。この金学順おばあちゃんを発掘してきて…『元朝鮮人従軍慰安婦/戦後半世紀/重い口ひらく』とブチあげたのはほかならぬ築地をどりなのだ…その後、この金おばあちゃんは…ただのキーセンとして売られていたことも、バレている」。
 先に読んだ続編の方がややあか抜けた印象。だが本書はパワフルさでは劣らない。勿論どちらも負けず納得だ。




▲ ページトップへ

xlvii )あっぱれ!懲りない朝日新聞(笑)

2013.4.24


あっぱれ!懲りない朝日新聞(笑)


勝谷誠彦著、二〇一三年二月、WAC BUNKO


捻りに捻って嗤い飛ばすとかえって微笑ましい(?)


 かつて新聞やテレビは広く尊敬されていた。だが時代は変わった。マスコミが造り出す通説を疑う人々が出現。ついに捻りに捻って嗤い飛ばす書物が登場した。テレビでも有名なコラムニスト勝谷氏による「あっぱれ!朝日新聞(笑)」である。本書はその続編。前書も売れた。本書も売れるだろう。築地に伝統芸能の劇場がある。本社、築地をどり宗家である。天声人語大名取、素粒子大名取、主筆や論説委員大名取、中堅や若手の名取たちが、流派独特の所作を繰り出す。お囃子社中が絶妙な間(あい)の手をつける演目を、観劇記者たる筆者が記事にする趣向だ。
 例えば、左に傾きすぎて背骨が湾曲し、支那朝鮮への土下座で舞台に額に叩きつけることを繰り返したあまりに、多くの大名取に見られる自虐ダコなどを目にする時、私は「型」を守り続ける築地をどりの凄まじさにあらためて感動してきた、と評価。ほのめかしの所作、庶民ぶりっこの所作、上から目線の所作、日本人はダメだもんねの所作、天に唾する所作、市民とか支援とか言えばごまかせるの所作、弱者の味方所作など見事!軍歌の響き落としはマンネリ。演目は「検察話悪相面捕物(けんさつりーくおざわのとりもの)」「年の瀬の回顧踊り」など。さわりは次の通り。
 阪神支局襲撃踊り:<彼らが目の敵にしたのは、本紙の論調だった>。おっ、と私は身を乗り出す。大名取のことである。さぞかし鮮やかな型を決めてくれるに違いない。しかし。<この国の風土や文化を愛し>。…圧巻はそこからだった。<歴史のほとんどを誇り>。よほど達人でないと、この驚くべき「誤摩化しの所作」は見えなかっただろう。<ほとんど>。何という秘技であろう。この瞬間の所作のなかに、あらゆる日々の日本国の歴史に対する罵詈雑言を閉じ込める技の冴え…続けて大名取は<日本語を相棒とする新聞が「反日」のはずもないのだが>と…静かに舞い納めたのであった。凄い。
 大阪に土下座踊り:ああ、北京も哭(な)け、平壌も叫べ、ソウルではチョッパリと罵るがいい。まさかであった。信じられない光景であった。なんと、築地をどりの名だたる大名取たちが、大陸半島に向けてではなく、観客席と大阪方面に向けて、あの伝統中の伝統「土下座の所作」をしているではないか。習近平も金正恩も李明博も、ただちに日本における最大の協力組織に何が起きているのか調べよ、と工作機関に命じたという。
 痛快だ。こんなに楽しい本はない。頑張れ築地をどり!と思わず声をかけてしまった。




▲ ページトップへ

xlvi )千年、働いてきました 老舗企業大国ニッポン

2013.3.15


千年、働いてきました 老舗企業大国ニッポン


野村 進著、二〇〇六年十一月、角川oneテーマ21新書


老舗企業大国という事実の確認から日本文化とは何かという洞察に導いてくれる名著


 世界最古の会社は大阪の金剛組。寺社建築に携わる千四百年以上続く老舗企業だ。飛鳥時代の五七八年に創業。欧州最古の企業の歴史はたかだか六四〇年。だが日本にはさらに古い老舗が百社近くある。創業百年以上の会社は日本に十万以上。これらは日本独特の現象だ。製造業が四五%にのぼる。日本は希有な職人のアジア。それに対して日本以外は商人のアジアだという。
 携帯電話振動モーター用ブラシの田中貴金属工業。メッキで最先端製品を生み出す福田金属箔粉工業。携帯電話用高精度人工液晶のエプソントヨコム。都市鉱山の先駆者、秋田小坂精錬。羊も羊飼いも消費者も幸せにする細胞増殖因子のヒゲタ醤油。アトピー性皮膚炎患者に福音をもたらす高松勇心酒造。トレハロースの岡山林原(はやしばら)。微粒子分散技術を製品に生かす呉竹(くれたけ)。鋳造技術の永瀬留十朗工場、など。
 鋳造技術の宿命的な弱点は不良品が避けられないことらしい。永瀬社長は三十五年間、データを取り続け不良品割合を下げてきた。将来九八%まではソフト化できる。富士山頂の直径二十五cmのマトに百km離れた地点から矢を放ち命中させるようなもの。日本の技術は際立ってものすごい、と語る。林原の特徴は同族経営、非上場だ。その強みは社長が替わらないこと、株主の顔色をうかがわずに済むことだそうだ。だから長期的な視野で研究開発に臨める。ハイリスク・ハイリターンのテーマに長期間、資金を投入可能だという。老舗製造業には次の五つの共通項がある。1)同族経営が多い。ただ血族に固執せず、躊躇なくよそから優れた人材を取り込む。2)時代の変化にしなやかに対応してきた。柔軟性と即応性に富んだ「動」の組織。3)創業以来の家業部分は頑固に守り抜いている。4)それぞれ「分」を弁えている。5)町人の正義を実践し、売り手と買い手が公正と信頼を取引の基盤に据えてきた。
 世界の品々は、墨も、金箔も、鏡も、香も、日本に入り独自の変化を遂げた。著者には、日本列島が古い酒の瓶(かめ)か何かに見えたという。アジアの東端に位置するこの島国は、外来文化を鷹揚に取り込み、混ぜ合わせ、熟成・醗酵させて、しばしば原型を留めない、だが至極魅力的なものに変えてきた。それだけでなく今度は外の世界に向けて送り出し続けてきた。この一見閉ざされているようでいながら、実は常に開かれている点こそが大切だ、と。日本文化とは何かが見えてくるノンフィクションの魅力満載の書。お薦めだ。




▲ ページトップへ

xlv )未完の占領改革 アメリカ知識人と捨てられた日本民主化構想

2013.3.15


未完の占領改革 アメリカ知識人と捨てられた日本民主化構想


油井大三郎著、一九八九年二月、東京大学出版会


日本側から国際反日ネットワーク構築にその理論的支柱を与えた問題の書物


 YMCA系シンクタンクIPR(Institute of Pacific Relations、太平洋問題調査会)は一九二五年に設立された。学術、文化交流による友好促進を目指した。前年に米排日移民法が制定され対立が激化し始めた頃だ。国際会議は二〜三年毎に開催され、政治、経済、教育問題を討論した。満洲問題、日中戦争で政治色が強まり、日米開戦後に日本支部は解体。戦時中、四二年第八回モン・トランブラン、四五年第九回ホットスプリングの両会議では日本の戦後処分が主な議題だった。
 会議では、日本人の特徴を集団主義、権威主義、排外主義が三位一体となった意識構造とし、それが戦争に突入する精神的原因とされた。次にこの意識構造が日本の敗戦でどれだけ変わるか議論された。以下のような強硬論も出た。天皇神格化と日本民族優越性神話という皇道精神に勝利しない限り、日本に対する軍事的勝利は無味だ。勝利とは日本人が国家主義を超越し、人類共通の社会に統合してゆく思想や感情を習慣化し発展させることだ。戦後が戦前戦中と明確に断絶するために、共産主義的衝撃力によるカオス(革命)までもが必要だ、と。
 IPRの活動は米の対日占領政策決定に影響を及ぼした。だが占領改革は当初の目的を達成できなかった。東西冷戦激化による米の政策転換、いわゆる逆コースにより未完に終わる。天皇制が残って日本人の精神構造の特徴が維持された。日本=単一民族国家という神話が崩れず、少数民族に対する差別が構造化した。講和条約には大陸中国や朝鮮が招かれず、仏が隣に控えていた西独とは対照的だ。対米戦争はこりごりという意識が強まり、戦後の向米一辺倒の外交姿勢につながる。明治期の脱亜入欧の再現となった。反面、実際に多大な被害を与えたアジア諸国への戦争責任を軽視する姿勢が残った。米でのレッドパージという魔女狩りのためIPRは悲劇的な結末を迎える。だが占領改革の完成は日本人の手にいま委ねられている、と。
 本書ではIPRの歴史が学術的によくまとまっている。ただ結論は日本のリベラルなメディア、反日の中国、韓国の主張とそっくりだ。その理論的バックボーンとなったからだ。著者にとっては民主化=共産化であり、逆コースへの恨めしさが透けて見える。だが歴史的文書が公開され、IPRがいかに多数の容共勢力で占められていたか判明している。当時の米の共産主義シンパの政治家とメディアが日本を戦争に追い込んだ歴史を踏まえ、本来なら全く別の視点から全面書換えが求められる。




▲ ページトップへ

xliv )学校では教えてくれない日本史の授業2 天皇論

2013.4.12


学校では教えてくれない日本史の授業2 天皇論


井沢元彦著、二〇一二年一月、PHP研究所


確かに学校で決して教わらない。よく理解できる。ただ考古学の時代については要再考


 天皇を軸とした日本通史。井沢ワールドは面白い。「日本史の教科書では…『通史』という長いスパンで歴史をとらえる視点に欠けている…ケガレ思想や怨霊信仰といった日本固有の宗教とも言える思想や、日本風に変化した外来思想についての記述が十分になされていない」と説く。
 なぜ天皇陵に墓誌、装飾がないのか?復活して怨霊とならぬよう予防措置をとった。なぜ朝廷は武力を放棄したのか?死、ケガレを嫌った。なぜ武士が日本に誕生したのか?荘園という脱税システムや関白という位を作った藤原氏に対抗し、天皇は子や孫を臣籍降下して源や平の姓を与えた。彼らが武装農民となり武士となった。なぜ武士が力を持つようになったのか?白河天皇が上皇として院政を始め、院を守るため私設軍隊を置いた。これが武士台頭の始まり。なぜ平氏は一代で滅び、源氏は長く続いたのか?土地所有者になるという武士の願いを頼朝は叶え、清盛は理解しなかった。
 なぜ日本で世界に例のない朝幕併存が実現したのか?日本古来の宗教思想ゆえに天皇家を滅ぼせなかった。家康は東照大権現として自らの神格化を成し遂げた。だが明治維新で大ドンデン返しとなり、結局は天皇家を超えられなかった。なぜ幕末に尊王思想が巻き起こったのか?日本で形を変えた朱子学が影響した。なぜ本来とは違う意味で往生や成仏と言うのか?日本人の心に深く根ざした怨霊信仰がそれらの意味を変えた。なぜ国家神道は排他的となったのか?朱子学の排他的要素が混じった。なぜ日本にだけ売国奴が出なかったのか?尊王思想と国家神道が日本を幕末の危機から救い、その信仰がすでに非常に堅く国民の心を守っていた。
 なぜアジアで日本にいち早く民主主義が根付いたか?天皇という絶対的な存在があった。日欧ともに絶対者の前での平等が理解できた。それゆえ民主化できた。なぜ日本には強いリーダーが生まれないのか?なぜ日本は物事が迅速に進まないのか?日本人には天皇を超える思想があり、話し合いで物事を調整することが一番大切な原理だ。話し合い絶対主義が日本に困難をもたらしている、と。
 ただ考古学の時代に関する仮説はとうてい支持できない。稲の遺伝子研究、質量分析機導入による年代測定法の進歩、縄文人や弥生人のY染色体やミトコンドリア染色体の研究、日本語の成り立ちの研究などを踏まえて、縄文人=遊牧民族説や弥生人=農耕移民説などは再考すべきだろう。それ以外はお薦めだ。




▲ ページトップへ

xliii )外務省の罪を問う

2013.4.5


外務省の罪を問う


杉原誠四郎著、二〇一三年三月、自由社


日米交渉打切り通告の手交遅延問題を外務省に謝罪させた「つくる会」代表の叫び


 外務省はダントツの失敗作だという。日本国民はどれだけ悲惨な目にあってきたか。それを本書が明らかにした。これほど激しく大胆に外務省を批判した本はない。いや驚いた。外務省は五十三年間も全く謝罪しなかった。日米交渉打切りの最後通告手交が遅れた問題のことだ。原爆を落とした理由として、米大統領も参謀総長も真珠湾の騙し討ちをあげた。外務省の不手際が原爆投下に直結した。そう著者は主張する。
 日露戦争までの日本外交は素晴らしかった。だが外交官試験制度導入でダメになった。二十一ヶ条要求を袁世凱に出し恨みを買う。軍部の反対を押し切って「爾後(じご)国民政府を対手(あいて)とせず」と近衛首相に発表させ日中和解を不可能にした。F・ルーズベルトが「あなた方の息子は、いかなる外国の戦争にも送られることはない」と誓って米大統領三選を果たしたにもかかわらず、その政権の特徴を見抜けず日米戦回避に失敗。
 戦後も外務省の劣悪さは連綿と続く。歴史教科書問題では誤報と知りながら謝罪させた。天安門事件後、江沢民は平然と反日教育を開始。だが外務省は一切抗議せずODA供与も中止しなかった。今も続ける。どこの国のための外務省か。従軍慰安婦強制連行の事例は存在しない。だが官房長官談話を出し謝罪させた。尖閣問題では日本政府が購入すると隣国の圧力をまともに受け実行支配強化が難しくなる。だが外務省は中国外交部と結託し国による購入に進展させる。結果は最悪の事態だ。
 外交官が目指すのは管轄する国との平穏な関係だ。国益擁護の観点はいささかも入っていない。外務省は自分たちの幸せのためだけに存在する。本来なら瞬時の執務能力と真の国益を洞察する力が外交官に期待される。定期的に臨時外交審議会を設置し、外交の在り方を国民の審議にかけよ。これほど戦争や人殺しが少なく、悪いことをしても謝れば許されるという文化文明を築いたのは日本をおいて他にない。だがありもしなかったことで嘘をついて日本を貶め、逆に日本の名誉なら真実でも口にしない。これが日本の現状だ。自虐的な東京裁判史観の克服こそ外務省の真正な使命、役割ではないか。
 舌鋒鋭い主張は首肯することばかり。ただ情けない思いが残る。日本人は長期的展望に立つのがかくも苦手だ。仮借ない国際政治の場で自己主張しない。外務省だけではない。我々の弱点はここにある。だからまずは外務省に本来の役割を担ってもらおうということだ。お薦めの本である。




▲ ページトップへ

xlii )困った隣人 韓国の急所

2013.3.15


困った隣人 韓国の急所


井沢元彦、呉 善花著、二〇一三年三月、祥伝社新書


隣国に自分が病気であることに気づいてもらうためにはどうするべきか?


 韓国の歴史観はどうしようもない。歴史を捏造し国民を洗脳。異議を唱える人を非難し正しい歴史を学べと叫ぶ。本来なら付き合いたくない。だが隣国なのでそうもいかない。だが日本には隣国に関与した歴史がある。傍観者にはなれまい。こう井沢氏は冒頭で述べる。本書で韓国の病状を明確にした。それは腐敗、詐欺、凶悪犯罪の多発。拡大する貧富の差。サムスンは儲かるが国内は潤わない。捨て子が多く、孤児輸出大国。その二十三%が障碍児。虚飾、捏造だらけ。日本文化はみな韓国がルーツと主張。
 呉女史は解説する。偏狭な自民族優越主義は劣等感の裏返し。韓国の歴史では、例えば日帝は土地を奪うために来たという観点がまず来る。収奪は過酷だったはず。三%はあまりに少ない。四〇%だろうとなる。従軍慰安婦については、強制連行される娘を見ながら放っておく卑劣な朝鮮人がいたはずがない。韓昇助(はんすんじょ)高麗大名誉教授が日韓併合は祝福だったと書いた。露に併合されなかったからだ。もし併合されていたら朝鮮半島まるごと赤化され今の北朝鮮のようになったろう、と。
 反日民族主義者と日本左翼の共通闘争テーマは教科書、靖国、従軍慰安婦だ。自ら反軍国主義の平和勢力を任じる。だが併合前の朝鮮は独立可能な状態ではなかった。庶民も極貧で悲惨だった。三・一独立運動後の三十五年間は弾圧統治ではない。強い反対運動は起きなかった。韓国人圧倒的多数が整然と協力した。悪い同民族統治より異民族による善政を歓迎したのだ。だが暴力的弾圧や果敢な反乱を捏造し、罪の一切は日本軍国主義にあると主張。これが彼らの正体だ。
 治療法も述べる。韓国が最も恐れるのは反日民族主義が日本の口を封じる万能薬ではなくなること。だから日本は口を閉じてはならない。歴史を善悪の問題にしてはならない。善いこともあった?反省していない!善悪論争に巻き込まれるだけだ。外交でも中途半端なつき合いならやめた方が良い。これまで言うべきことを言わなかった。日韓関係をダメにした原因だ、と。
 井沢氏は述べた。日本人には人類みな同じという「宗教」がある。善かれと思ってしたことで他民族には大迷惑ということもある。最大の被害者が韓国人かもしれない。対して呉女史は断言する。善意から出る悪行はない。悪行は悪意から出る。そう韓国人は考える、と。とことん付き合うなら日本人的発想を捨てよ!これが結論だろう。実行は難しい。だがとても参考になった。




▲ ページトップへ

xli )チャイナ・ギャップ 噛み合ない日中の歯車

2013.3.8


チャイナ・ギャップ 噛み合ない日中の歯車


遠藤 誉著、二〇一三年二月、朝日新聞出版


ルーズベルト-蒋カイロ密談内容の発掘!沖縄-尖閣領有を放棄した中国


 蔣介石は迷っていた。支援は不十分。真の敵は共産党。いっそ南京汪兆銘のように日本になびき対日講和を結ぼうか、と。日本嫌いのルーズベルトは、一九四三年十一月、蔣をカイロに呼び米英中三大国の一つに祭り上げる。褒美をやるからと日本降伏まで踏みとどまらせた。何と米中密談でルーズベルトは沖縄を領有して良いと誘う。蔣は日本の恨みを買うと嫌がり断った。かくて沖縄領有の機会を失う。後に蔣は後悔し密談内容の秘匿を厳命。これは何を意味するか。中国には尖閣諸島領有権を主張する根拠がないのだ。本書著者は一通のメールを受け取った。中国の友人からだ。女史は中国公式サイト、米国務省公文書館で確認。本書を書きあげた。掘り起こしたカイロ密談を日中米三ヶ国とも直視してほしい。こう著者は切望する。
 政権は銃口から生まれる。毛沢東の暴力革命精神だ。建国後も同じ。より激しく暴力を振るうとより革命度が高い。尊敬された。その精神は反日教育で育った若者たちにも染みついている。二〇一二年九月のデモで凶暴に荒れ狂う姿の原点だ。毛沢東をどう位置づけるか。中国共産党は議論を避けた。そして改革開放を推進。金儲け肯定路線は毛思想と相入れない。デモで暴れたのは毛沢東万歳派である。神格化された毛が共産党現体制に迫る。実はここに中国共産党と社会の危うさがある。ガス抜き、ヤラセという分析は安直だ。日本車を運転していた中国人男性に重傷を負わせ逮捕された蔡洋(さいよう)についてネットで書き込みがあった。これは現代の阿Qではないのか。魯迅が書いた阿Qは…ああいう形で社会に対する恨みを晴らそうとする…もしこの時代に魯迅がいたら…とっくの間に封殺されていただろう、と。
 著者の分析は続く。ソ連崩壊後の一九九二年、中国は領海法を定めて尖閣諸島を自国領と明記した。一九九五年、江沢民は反日へと大きく舵を切った。だが日本はどちらにも毅然と抗議しなかった。最悪の関係を作った原因の一つだ。中国にも注文がある。日本を軍国主義と非難するなら尖閣諸島における威嚇活動をやめよ。日本の強硬路線の正当性と必然性を日本人に認識させてしまう、と。
 著者は戦後も満洲の長春に留まり教育を受けた。共産党軍による長春包囲戦で家族に餓死者を出すなど壮絶な体験をした。一九五二年ようやく帰国。異色の経歴を持つ。著者のスタンスには個人的に異論もある。だが今の中国を知り、解決の方向性を探る意味で参考になった。




▲ ページトップへ

xl )なぜアメリカは対日戦争を仕掛けたのか

2013.2.28


なぜアメリカは対日戦争を仕掛けたのか


加瀬英明、ヘンリー・S・ストークス著、二〇一二年八月、祥伝社新書


マクロから見た日米戦。通説しか知らない人のための易しい入門書


 真実は一つだ。だが歴史観は一つではない。二〇一一年十二月八日、東京憲政記念館大ホールで、対米開戦七〇周年シンポジウムが開かれた。テーマは本書タイトルと同じ。講演内容を敷衍して本書がまとめられた。日米戦争とは何だったのか?なぜ起こったのか?日本が侵略国家として責任を一方的に負うべきなのか?はたして日本が加害者で、米英蘭とその植民地アジア地域が被害者なのか?あの戦争へと導いた歴史を公平に検証するとどうなるだろう?
 筆者の一人加瀬氏は、東京とワシントンで何が起こっていたか、記録を時系列で比べた。結論は米が日本に仕掛けたというもの。昭和に入り日米が対立を深めてゆく中で、日本は困難を打開しようと真剣な努力を続ける。だが追い詰められていった。日本が真珠湾を攻撃するずっと前から、ルーズベルトは日本と戦って屈服させ無力化することに決めていたからだ。日本は米も平和を望んでいると思い込み、二国間の交渉に望みをかけた。まさに独り芝居だった。米に翻弄され、陰謀にはめられ、やむにやまれず開戦に踏み切ったという。狂乱の時代だった。
 もう一人の筆者ストークス氏は少し視野を拡げる。ペリー襲来により江戸が短期間で一変した。平和で繁栄していた日本文化と人々の生活は無残にも破壊された。ペリーの歴史観は白人優越主義だった。美しい日本を破壊した意味がわからなかった。日本は西洋の毒牙から生き残ろうと必死に努力した。工業化に成功し、日清・日露戦争に勝利。ついに真珠湾を襲って日米間の戦端を開いた。米のペリー的なるものが三年八ヶ月の日米戦争を招き、江戸市民末裔が大量に虐殺された。
 ペリーはパンドラの箱を開けた。あらゆる悪が出尽くした。戦争という悪だ。ペリーが種を蒔きマッカーサーが収穫した。白人が勝ったように見えた。だが欧米白人による植民地支配が終焉を迎えた。アジア全土で人々が独立を果たす結果を招いた。あらゆる悪が出尽くした後で希望が残った。被支配民の希望、この地上に植民地が存在せず人種平等の世界となる希望だ。それは日本が大東亜戦争に立ち上がった成果だった。白人にとって、ペリーはまさにパンドラの箱を開けたのだった。
 国際政治は非情だ。「まこと」によっては動かない。大国の国益、好み、エゴによって動く。日本人指導者は愚かだった。そう一言で片付けられるほど単純ではないことがわかる。通説しか知らない人のための易しい入門書と言えよう。




▲ ページトップへ

xxxix )日本被害史 世界でこんなに殺された日本人

2013.2.18


日本被害史 世界でこんなに殺された日本人


石平、但馬オサム、江藤剛、田中秀雄、若杉大、宮崎正弘、桜林美佐、田久保忠衛、大高美貴、花御堂久子、詠清作、野村旗守、下條正男、山川京助、岩田温、惠隆之介、茂木弘道著、二〇一三年一月、オークラNEXT新書


日本人が受けた残虐行為も公平に記録する必要がある


 日本兵は残虐で蛮行を働いた。これが通説だ。中国や韓国の抗日記念館には、おどろおどろしい蝋人形などが展示され、日本人は悪魔か殺人狂と説明されている。それを何の検証もなく受け入れ、平和主義者を自称する人間やメディアが日本には多い。加害者日本人は被害者として描くべからず。そうした空気の中、本書は敢えて日本人の被害記録をまとめた。中国での日本人虐殺事件、シベリア抑留などソ連関係の悲劇、朝鮮進駐軍・ヤクザや釜山収容所など朝鮮関係の事例。東京大空襲や原爆投下、占領下の殺人など米による悲惨。みな心傷めずして読めない。
 女はみな強姦され裸で射殺されていた。ある死体は陰部が銃剣で突き刺され、棒が挿入されていた。男は目玉をくり抜かれ、腹部内臓が引き出され、陰茎が切り取られていた。子どもや女は指を切られ、腕や足を切断され、五体をバラバラに切り刻まれた。猟奇趣味のフィクションではない。中国における日本人虐殺現場の目撃証言である。ただ殺すだけでない。相手の心や身体を存分に辱め、損壊することを楽しむ嗜虐性。こうした行為を日本人は想像すらできない。
 ソ連侵攻は一九四五年八月九日。十五日にポツダム宣言受諾を表明した後も攻撃の手を緩めない。先兵の囚人兵は日本女性を捜し出し夫や親たちの目前で集団強姦した。止めに入った男性らは容赦なく射殺。まさに地獄だ。だが後で正規兵が来ると残虐な囚人兵たちは逆にその場で銃殺された。正規の軍人は民間人に悪魔の所業はしないものだ。それを許すと秩序が崩れ、敵とも戦えない。
 リンドバーグは戦時日誌に記した。米兵は日本人捕虜や降伏する兵士の殺害を何とも思っていない。彼らを動物以下に軽蔑。ドイツ人が欧州でユダヤ人にしたことを、米国人は太平洋で日本人に行っている、と。広島に原爆が投下された三日後、米国教会代表がトルーマンに原爆再使用の断念を電報で迫った。だが「獣と戦うには相手を獣として扱わなければならない」が答えだった。
 えひめ丸が米原潜急浮上により沈没。犠牲者が出た。メディアが反米キャンペーンを張った。二年後、玄界灘で日本漁船が韓国貨物船と衝突して沈没。犠牲者が出た。非があった貨物船は遭難者を救助せず現場を立ち去ろうとした。だがメディアは沈黙を守った。この偏りは何なのだろう?日本人が受けた残虐行為も公平に記録し、事実として記憶にとどめる必要がある。本書は偏っていない。読んでそう確信した。




▲ ページトップへ

xxxviii )アメリカは日本経済の復活を知っている

2013.2.15


アメリカは日本経済の復活を知っている


浜田宏一著、二〇一三年一月、講談社


日銀-財務省-学者-メディア複合体は国民を苦しめているという


 デフレ克服は日本経済喫緊(きっきん)の課題だ。マクロ経済政策、主に金融緩和によって有効需要を創出し、景気回復とデフレ脱却を図ってインフレを予防する。この政策をリフレーションと呼び、年率換算数%程度の緩やかで安定したインフレを誘導する。米経済学者アーヴィング・フィッシャーが提唱した。米、EU、英などで導入され、デフレを回避している。何も特別な政策ではない。だが日銀は採用しなかった。著者は徹底したリフレ論者。かつての教え子白川方明(まさあき)現日銀総裁らの頑なさを指摘し、リフレが日本を救うと平易な言葉で説いた。
 著者は診断する。日本経済低迷は日銀の不作為のせいだ。責任は重い。二〇一二年十二月の総選挙前後から知られてきたものの、リフレが日本で紹介されることはなかった。二%インフレ目標を日銀が受け入れる前から株高、円安が進んだ。だがメディアには将来の不安を煽る論調が目だつ。日本経済低迷は構造的な問題。金融緩和で経済は救えない。ハイパーインフレや底なしの円安で日本経済は死ぬ、と。なぜマスコミは通説を流布し続けるのか?わからない。
 著者によると、その原因はメディア最大の情報源が日銀そのものだというところにある。官報複合体とも言うべき日銀記者クラブの閉鎖性が問題だ。記者クラブには大手新聞テレビの記者だけが出席を許され、会見では起立、礼で日銀総裁を迎える。先生から教わらなければ記事も書けない生徒のようなものだ。批判的な研究者には役所から連絡が入り、日銀の流儀が説明される。膨大なデータで間違いを指摘され、研究会に呼びますなど甘言を繰り出される。かくして役所に無批判な御用記者と御用学者が養成され、日銀の主張だけが垂れ流される。日本は世界の経済学者が疑い怪しむほどの愚策をとり、国民が不況とデフレに苦しみ続ける。浜田氏はノーベル経済学賞受賞者を含む世界の名だたる経済学者にインタヴューした。正しい金融政策、リフレの実行が日本復活の第一歩だ。彼らは日本経済の復活を確信しているという。
 何と言うことだ。本当なのか?経世済民こそ経済のあり方のはずだ。だが日本では日銀の日銀による日銀のための金融政策となり、国民の生活と命はないがしろにされたということなのか?これでは世界で取り残され、我々が苦しむのも無理もない。嘆かわしい。強固な複合体は簡単には壊れないだろう。ただリフレ派と日銀複合体のどちらが正しいのか?やがて判明することになる。




▲ ページトップへ

xxxvii )病むアメリカ、滅びゆく西洋

2013.2.9


病むアメリカ、滅びゆく西洋


パトリック・J・ブキャナン著、宮崎哲弥監訳、二〇〇二年十一月、成甲書房


日本人はリベラリズムやグローバリズムとどう向き合うか?考えさせられる


 原著はベストセラーだった。だが内容が過激で邦訳は見送られた。日本に紹介される米の言説はリベラルだけ。反リベラルや反グローバリズムの書物は、米で広範な支持を得ていても日本人の視界に入らない。偏向したスクリーニングで我々の米国像を歪めている。これに違和感を抱き邦訳したのが宮崎氏だ。
 西洋文明は衰亡の危機にある。一九六〇年、世界の四人に一人が白人だった。二〇五〇年は十人に一人となる。白人は死んでゆく。出生率低下、急激な高齢化、移民増加により、西洋主導の国民国家システムは崩壊する。原因は?国際社会主義運動だ。ロシア以外の革命に失敗した共産主義者は新たな道を探る。フランクフルト学派という。ユダヤ人が多かった。米国に亡命し批判理論なるものを展開。体制の中で体制否定を繰り返し内部崩壊させる。文化と社会制度の破壊が目的だ。彼らは芸術、教育、メディアを掌握し、過激派、少数民族、犯罪者、麻薬、フェミニスト、ゲイ、セックスを礼讃。胎児を予防すべき疾患と考え母性の喜びを否定。女性は子どもを産み育てなくなった。
 世に絶対的価値、美醜や善悪の基準は存在しない。人間の行動規範は最終審判者たる左翼が決める。これが彼らの二大原則だ。平等主義=共産主義を推し進めるのが正義。殺戮者スターリンに同盟し捕虜二百万人を死なせ、広島・長崎で十四万人殺戮しても許される。白人被害者に黒人の犯人なら凄惨な事件でも大ニュースにしない。逆ならヘイト・クライムだと大騒ぎする。多様性を認めよと説き右派の不寛容を罵倒する。だが左派には寛容でも、右派には徹底して不寛容だ。ファシスト、ナチ、差別主義者、悪党、精神病者のレッテルを貼る。繰り返せばそれが真実になる。
 一九八九年のソ連崩壊後も国際社会主義との戦いは続いていた。西洋文化は生き残れるか?サブカルチャーになるか?西洋を守るために闘うことが新たな左右の境界、つまり保守派の新定義になる。寛容とは人に示すもので、真理に関する限り妥協すべきではない。正しいことは正しい。誤りは誤り。今必要なのは、世界が過ちを犯しているときに正義を説くことだ。以上、著者は語る。
 読者は彼の白人優越主義、キリスト教至上主義を嫌うだろう。だが日本も衰亡の危機に瀕している。日本の伝統、美意識、家族、道徳、少数派問題、歴史観、戦争責任は格好の攻撃目標だ。人口は減り尖閣や沖縄も狙われている。敵は誰か?もう気がづくべきだ。




▲ ページトップへ

xxxvi )日本人はなぜ貧乏になったか?

2013.2.5


日本人はなぜ貧乏になったか?


村上尚己著、二〇一三年一月、中経出版


アベノミクスの易しい解説本となっている。日本はこれに賭けるしかないようだ


 もう右肩上がりの日本には戻れない。低成長の成熟社会を目指すしかない。バブル崩壊は仕方がなかった。頑張りを忘れたので日本がダメになった。人口が減っているので停滞はとめられない。すでにゼロ金利の日銀に打つ手はない。大胆な金融緩和はハイパーインフレを招く。既に金融緩和をしたが効果がなかった。増税や支出削減など財政再建が先決だ。お金を刷るだけでは無意味、構造改革を優先せよ。日本人はまだ十分に豊かだ。著者によると全部ウソだという。
 日本はバブル崩壊のあと未曾有のデフレに陥っている。米もサブプライムローンバブルの崩壊を経験した。だがその後デフレになっていない。何故か?米FRBバーナンキ議長が日本経済を研究させた。大規模な金融緩和を行うことで景気の悪化を食い止めるべきことが判明した。そこで市場に莫大な資金を送り込む金融緩和に打って出た。日銀を反面教師としてデフレを見事に防いだのである。
 インフレ率と失業率を縦軸横軸とする図をフィリップスカーブというらしい。インフレ率が高くなるほど失業率が改善し、デフレが進展するほど失業率が悪化する。2〜4%のインフレ目標を実際に達成するなら雇用が生まれるという。マッカラムルールという計算式で金融緩和の適正規模を算出できるらしい。3.5%の名目成長を達成するには、日銀が追加で百兆円のベースマネーを供給しなければならない。日銀の金融緩和は絶望的に足りていないという。
 著者は述べる。大規模な金融引き締めでバブルを崩壊させた日銀は、必要な金融緩和政策を怠った。円の独歩高で日本人だけが貧乏になった。円高を引き起こしたのは誰か?米FRBのドル供給総量に対し、日銀の円供給総量が少なすぎたためだ。我々の貧乏は日銀の無作為が原因だった。逆に考えると、日銀が適切な規模で金融緩和を行えば、日本はデフレと円高から抜け出せる。日本国民はもうこれ以上不幸の道を歩むべきではない。もう無知と妄想から来る不幸の連鎖から力強く抜け出さなければならない、と。
 なるほど。あっという間に読めて分かりやすい。日銀の責任は重い。日本経済を没落させ日本人を貧乏にした主犯だ。だが日銀の無策をなぜ他の多くのエコノミストは擁護するのか?マスコミは過った通説をなぜ流布させ続けるのか?素人にはわからない。だが日銀が責任をもって金融政策を実行するよう、日銀法を改正する意見には賛成したい。国民が声を上げる必要があるだろう。




▲ ページトップへ

xxxv )コミンテルンとルーズベルトの時限爆弾 迫り来る反日包囲網の正体を暴く

2013.2.3


コミンテルンとルーズベルトの時限爆弾 迫り来る反日包囲網の正体を暴く


江崎道朗著、二〇一二年十二月、展転社


誰が真の敵であり味方であるのかを教えてくれる必読の書


 米は二つの対日政策で揺れてきた。ストロング・ジャパン政策とウィーク・ジャパン政策である。日露戦争では前者で膨張する露に対抗。日中戦争では後者だ。当時反日親中へ誘導したのがYMCA系シンクタンクIPR(Institute of Pacific Relations)のハーバート・ノーマン。共産党秘密党員の彼は主張した。専制的軍国主義の日本がすべて悪い。戦争に勝つだけでなく、容赦なく国家体制を解体し人民を解放すべし。この理論をGHQが採用。だがほどなく日本は危険な敵国ではなく反共の同盟国となった。これを逆コースと呼ぶ。
 しかし米ニューレフトのジョン・ダワーはノーマン理論を再評価した。逆コースにより天皇制など戦前の専制体制が温存された。東京裁判が不徹底で過去を反省しない。アジア諸国から信頼されるために、皇室を解体してアジアに対する加害責任を追及すべし、と。日本のリベラル左派も路線転換した。日本人は軍国主義の被害者からアジアの加害者へ、断罪の対象となった。こうして日米中韓の左翼はノーマン理論の再評価路線にそって、日本を追及する国際反日ネットワークを構築していった。
 日本を裁いた連合国はアジア諸民族の独立を蹂躙。台湾、中国大陸、インドシナ三国、インドネシア、チベット、ウィグル、朝鮮半島で夥(おびただ)しい犠牲者が出た。侵略に対する盾、日本を失ったからだ。日本=アジアの脅威、侵略国家説は破綻しているのに、反日勢力は、日本の国際社会復帰は東京裁判判決を受け入れたためと宣伝。だが講和条約締結の頃、米の対日政策は既に逆コースだった。東京裁判に否定的なジョージ・ケナン、タフト、ダレスらが軌道修正し、日本は国際社会に復帰できた。これが当時の国際政治の構図だった。
 米保守派はヤルタ協定を批判する。最大の敵はルーズベルトだ。東欧と東アジアをソ連に譲り、多くの人々に苦難を招いた。当時ソ連のスパイが沢山いた。暗号電文がヴェノナ文書として公開され明らかになった。ニューディーラーは政治や教育を支配し、キリスト教、伝統的価値、家族を敵視し、社会主義政策を推進した。彼らから政治文化の主導権を奪い返すことが米保守派の目標だ。米保守派は、日本がルーズベルト外交の歴史観を見直すのは当然だと考えている。日米同盟強化と矛盾しない。世界には連携できる人々がいる。ネットワークを育てる必要がある。
 本書はその厚みに比べて読み応えがある。誰が日本人の敵なのか味方なのかを学べる。異論もあるが大変参考になった。




▲ ページトップへ

xxxiv )戦後日本を狂わせたOSS「日本計画」 二段階革命理論と憲法

2013.1.18


戦後日本を狂わせたOSS「日本計画」 二段階革命理論と憲法


田中英道著、二〇一一年七月、展転社


日本の戦後は「穏健派主導による天皇制のマントを着せた自由主義的改革」ではなかった


 現代史は歴史ではない。新資料の公開で書き換えられる。本書著者は書く。米国立文書館が戦時中のOSS文書を解禁したおかげで、日本の戦後史ががらっと変わった、と。OSSとはOffice of Strategic Services戦術局で一九四二年に創設された。日本計画という反日政策を立案、実施した。戦後メンバーはGHQに移り占領政策のほとんどを作る。こともあろうにOSSは社会主義者の集まりだった。
 ロシア以外の社会主義革命は失敗した。そのためフランクフルト大学社会研究所の学者らは新たな社会主義の道を探った。フランクフルト学派という。その思想は政治家や労働者ではなく知識人を標的とした。文化そのものが闘争の中心だ。体制の中に入り、体制否定の理論を繰り返すことにより、社会を内部崩壊させる。つまり社会構造改革路線である。ほとんどがユダヤ人の同学派はナチスの擡頭によりドイツを出た。OSSは彼ら亡命者を積極的に登用。当時米国は容共の民主党政権。フランクリン・ルーズベルトもユダヤ系で隠れ社会主義者だった。
 戦後、象徴天皇制、戦争放棄、社会構造改革というGHQの基本方針はOSS時代に決まっていた。鎮圧する軍隊がない中で、野坂参三らを含めた勢力に活動させる二段階革命理論だった。だが一九四七年から米は反共に転じる。旧OSS メンバーは居られなくなった。しかし時すでに遅し。戦後の方向は決定していた。教育界では二十万人が追放され、素人や二流三流の左翼が数多く入った。レッドパージの対象は六千人のみ。フランクフルト学派は学校やメディアで人々を洗脳した。曰く、日本は侵略国家であり、南京虐殺など残虐行為を働き、真珠湾攻撃は実に卑怯な作戦で、原爆を落とされたのも自分たちが悪かったからだ、と。日本人はその洗脳から抜け出せない。しかもマッカーサーと米軍に感謝の気持さえ持った。そして日本文化そのものが変質し、日本人意識の左翼化が進んだ。
 世界のメディアもフランクフルト学派によって支配されている。彼らは多文化主義を肯定し、価値観の上下を否定する。すべて平等だ。歴史的価値観を粗末に扱う。ソ連崩壊で保守派は勝利したと思った。だが既に文化は縄張りを失っていた。彼らの二大原則は、a)この世に絶対的価値、美醜の基準、善悪の基準は存在せず、b)人間の行動規範は最終審判者である左翼が決定するというものだそうだ。民主主義と称し日本社会を内部崩壊させたニューレフト。恐ろしい。現代史の書き換えを静かに見守っていきたい。


脚注
1)日本人意識の左翼化が進んだ:社会主義国の崩壊の後とはいえ、切り替えができない人が多い。状況は今も変わらない。
2)世界のメディアもフランクフルト学派によって支配されている:カルチュアル・スタディーズ、ポスト・コロニアリズム、ジェンダーなどもマルクス主義を標榜しないマルクス主義方法論であるという。




▲ ページトップへ

xxxiii )韓国が「反日」をやめる日は来るのか

2013.1.14


韓国が「反日」をやめる日は来るのか


鄭 大均著、二〇一二年十二月、新人物往来社


反日はレイシズムで、韓国人にとっても有害である


 反日はレイシズムである。こう言い切る書物に私は初めて出会った。著者は語る。韓国人の反日は歴史体験の単純な所産ではない。幼い頃から日本への敵意、憎悪を学ぶ。公教育、年中行事、メディア、日常的、習慣的な刷り込みによって形成される。反日とは敵意ある日本批判。日本に対する蔑視や敵意、その思考や態度。反日ナショナリズムは常識や良心を破壊する。もはや制御できない怪物となった。やがて韓国人をも傷つける。野放しにすると危険だ、と。
 戦後、朴正煕元大統領がナショナリズムに道筋をつけた。ただ彼自身の自国像は否定的だった。韓国史は「退嬰と粗雑と沈滞の連鎖史であった…いつも強大国に押され…姑息、怠惰、安逸、日和見主義…小児病的な封建社会の一つの縮図」だったと書いた。だが彼のリフォーム・ナショナリズムは成功し、一人歩きをはじめる。八〇年代以降、国民生活の向上、民主化の実現、オリンピック開催、国際的地位の向上、韓国企業の海外進出などを経て、膨張主義的、自己陶酔的なナショナリズムが顕在化した。痩せた自我は急激に肥大化する。謙遜は傲慢に、自嘲は自尊に、傷だらけの過去は栄光に置き換えられた。軍国主義復活、日本閣僚またも妄言、教科書歪曲を正せ、従軍慰安婦に補償せよなどと日本に詰め寄ると、譲歩が引き出せた。
 筆者は書く。韓国では、文化的優越意識、日本への疑念や不信、敵意や対抗心が条件反射的に表出される。その社会の同質性によりナショナリズムが燃えさかり、言語の孤立性により保護される。他方、自国文化が日本化することを怖れている。日韓には、かつての被害者と加害者の子孫が、親や祖父母たちの仮面をかぶって演じる「えせ道徳劇」の姿が見て取れる。日本人が歴史の代価を十分に払っていることは、今日の日本人を見ればよく分かる。今では韓国の方が国粋主義的で暴力的だ。韓国が「反日」をやめる日は当分来ない。孤立しているのは日本側である。反日は韓国人に有害だと知らせるには、まず日本側が批判を加えなければならない。それが筆者の立場であり、本書はその小さな実践である、と。
 メンタルヘルス的に見ると、肥大化した自己像を持つ人は自己愛性バーソナリティ障害など、社会に適応できず生活に不都合を生じる。同じように、怪物となった反日ナショナリズムは、やがて韓国に致命的な傷を負わせることだろう。まず日本側からの批判がなされるべきだという著者に賛同したい。




▲ ページトップへ

xxxii )南京「大虐殺」被害証言の検証 技術屋が解明した虚構の構造

2013.1.9


南京「大虐殺」被害証言の検証 技術屋が解明した虚構の構造


川野元雄著、二〇一二年十月、展転社


被害証言の検証で明らかになる国民党軍焦土作戦の犠牲者、同じ民族に虐殺される惨劇


 南京大虐殺に関する論争は噛み合わない。あった、なかったの水掛け論になり、議論がすり替わる。現場と被害者を、次のように分けて考えた方が良いようだ。1)南京城内か、2)杭州湾上陸後から南京に至る途上でか。3)一般住民か、4)捕虜や便衣兵(ゲリラ)か。企業の元技術者だった著者は2)での3)に焦点を絞り、証言を検証しようと本書をまとめた。
 当時南京滞在経験を持つ父親から、著者はその様子をずっと聞かされて育った。彼の記憶は通説とずいぶん乖離していた。その謎を解こうと、中国側の被害者証言をしっかり読むことにした。朝日新聞元記者本多勝一氏の「南京への道」を選んだ。中に南京大虐殺の凄惨な場面が延々と登場する。まず圧倒される。日本軍は何と恐ろしいことをしたのか、と。だが繰り返し精読するうちに、著者は疑問点に行き当たった。そして、日本軍による住民虐殺を矛盾なく裏付ける証言が一つもないことを突き止めた。著者が推定した真犯人は中国国民党軍である。敵の進軍を遅らせるために彼らは焦土作戦をとった。撤退直前、敵の手に渡りそうな地域の家屋や農作物に放火する。住民の強姦、虐殺も併せて行ない、日本軍による犯行と主張した。
 著者は述べる。尖閣諸島事件での対応を見ると中国当局の一貫した姿勢がわかる。自分の都合に合わせて真実を捻じ曲げるのだ。不幸なのは中国一般民衆である。彼らは戦争に巻き込まれ、同じ民族によって虐殺され、いま共産党政権が事実を粉飾し、尊い生命は二重、三重に弄ばれている。日本人は、粉飾された歴史を鵜呑みにしてはならない。安易な正義感を持ってはならない。歴史の不幸の悪用を許さない静かな情熱を持ち、彼ら中国人と相対して行かねばならない、と。
 普通の人は考える。a)被害者証言が多くあるのだから虐殺は実際にあった。b)実際にあったのだから、謝罪して二度と同じ過ちを繰り返さぬよう反省すべし。c)南京大虐殺否定派は右翼。反省しないと日本はまた同じ過ちを繰り返す、と。根幹にa)の信憑性があって初めて上記論法が成り立つ。その点、証言そのものを検証することは重要だ。本書を手にするのは、通説に何らかの疑問を持っている人だろう。しっかり読めば理解できる。良い本だ。ただ上述の普通の人にも読んでもらうために、何かの工夫が必要かもしれない。一目で分かるよう図式化するのも良いだろう。静かに真実を指摘するこうした本が続々と出て欲しいものだ。




▲ ページトップへ

xxxi )データで読み解く中国経済

2012.12.13


データで読み解く中国経済


川島博之著、二〇一二年十一月、東洋経済新報社


システム分析による中国の現状と将来像。ただ他国を侵略せず覇を唱えない中国!は違和感あり


 尖閣諸島を狙う中国。日本が向き合うのは容易ならぬ相手だ。あれほど粗暴な振舞いを許す理由は、政府が国民の不満を逸らすために外敵を作るためだろう。ではその不満、格差の拡大、絶えざる幹部汚職の原因は何か。中国解説本は数多く出ているが、全体像の理解は困難だ。そもそも発表されるデータに信用できないものが多い。そこで筆者はシステム分析という手法を用いた。これは不確実な情報やデータを基に、的確な判断を行うことを目的としているそうだ。
 筆者によれば、都市部に富裕層2000万人と中産階級1億人がいて、党特権階級が都市に10万人、農村に100万人いる。残りは恩恵を十分受けていない。公式所得分布データから見る限り、自家用車を購入可能な収入を持つ都市住民は少ない。マンション購入などもっとムリ。それが可能なのは都市住民が裏マネーを収入の一部としているからだ。中国の奇跡の成長は建築への投資が原動力となっている。公有制の農地をタダ同然で取り上げ、地方の土地開発公社が投資する。地価を上昇させて開発し、新たな資金を入手してまた投資。要するに土地転がしである。資金の流れに関わる人の数は少なく、警察や司法は共産党の指導下にあり報道の自由もない。当然汚職が蔓延する。全国の土地開発に関係して毎年155兆円がどこかに消えている。これが裏マネーで筆者は次のように概算する。一世帯あたり富裕層が年1164万円、中産階級は116万円で、マンション投資や自家用車購入の資金となっているという。
 土地総額はGDPの6倍。バブルの中国経済は岐路に立っている。内需は期待できず、賃金も上昇。バブル崩壊、地価下落は顕在化していないが、いい加減な不良債権処理はやがて明るみに出て問題化するだろう。人口データからも筆者は予言する。21世紀は中国の時代ではない。少子高齢化に悩み、経済で行き詰まり、政治的にも混乱し、内政で手一杯になる。尖閣、南沙諸島、台湾も主要関心事でなくなり、中国の統一確保が核心的利益として浮上する。若者人口が多くないため天安門事件の再来はない。米国は移民のために若い国であり続ける。中国は米国に取って代われない、と。
 なるほど中国の全体像が浮かび、通説を覆す予想が並ぶ。ただ異論もある。三千年も前から大国でありながら周囲を侵略したり世界に覇を唱えたりしたことがなかった、と。この首を傾げたくなる主張はシステム分析の対象外のようだ。




▲ ページトップへ

xxx )なぜ日本人は、最悪の事態を想定できないのか 新・言霊論

2012.12.6


なぜ日本人は、最悪の事態を想定できないのか 新・言霊論
言霊(ことだま) なぜ日本に、本当の自由がないのか


井沢元彦著、二〇一二年九月、祥伝社新書
井沢元彦著、一九九五年十二月、祥伝社黄金文庫


言霊(ことだま)を知らずして日本は語れない。日本人の宗教を説いた必読の書


 四四〇万部以上売った「逆説の日本史」シリーズの著者は、日本の歴史や諸現象をあるキーワードを使って読み解いている。それは「言霊(ことだま)」で、一九九一年刊の著書で世に問うた。二十年経ち、福島第一原発事故を受けて書き直したのが、本書「新・言霊論」だ。箇所によっては、前著で用いた例が同様に使われている。だが、日本を蝕んでいる日本固有の行動原理の存在を、あらためて教えてくれる。
 一九九一年、福島第一原発のタービン建屋で水漏れ事故が起きた。地下一階に水があふれて、非常用ディーゼル発電機が使えなくなった。担当者は津波が来たら一発で炉心融解だと悟ったという。だが、津波の想定はタブー視されていた。国費三十億円を要した災害用ロボットも捨てられた。事故の可能性を認めることになるので、東電が受け取らなかったのだ。実際の事故では、津波の数時間後にメルトダウンが起こっていた。だが、二ヶ月後に東電が認めるまで誰もそう書かなかった。
 著者によると、これらは全て「言霊」の支配による。言霊とは「言葉と現象がシンクロする」ことで、「こう言えばこうなる」「あると言えば実体がなくてもある」「マイナス予測は、それが実現するよう願った(事挙げした)ことになる」とする世界が言霊社会だ。人を不愉快にする意見は言えない。どう非難されるか経験的に知っているからだ。事故の可能性を認めれば、津波対策、地震対策、全電源喪失対策などが準備できる。ところが日本でそれを言うと、事故が起こるのを望んでいると解釈されてしまう。
 かつて天皇や皇族は武装していた。だが戦さに備えると実際に呼び込むとされ、正式な軍隊を持たなくなった。桓武天皇は平和を事挙げして平安京に遷都した。時代は下って太平洋戦争前、海軍は対米戦になれば負けると知っていた。だが負けを願っていると非難されるので言えなかった。戦後の平和憲法も言霊信仰に支えられている。平和を願うだけで戦争にならないと信じているからだ。抑止力について話すだけで戦争を願っていると非難される。だから本当のことは言えず、最悪のことが想定できない。言霊という迷信に支配されているのだという。
 日本人は言霊という宗教の信者である。言霊を知らずに日本は語れない。言霊の悪影響を克服しなければ、原発事故のようなことが必ず将来また起こる。これが著者の主張だ。一読に値する。ただ、最後の私と朝日新聞闘争史という章は、書かぬが華と感じた。




▲ ページトップへ

xxix )韓国人が書いた 韓国が「反日国家」である本当の理由

2012.11.30


韓国人が書いた 韓国が「反日国家」である本当の理由


崔 碩栄(チェ ソギョン)著、二〇一二年十月、彩国社


異説を唱えて韓国内でバッシングされないか著者のことが心配


 反日感情の原因は、日韓併合と秀吉の朝鮮出兵だと思われている。だが著者は言う。それならば終戦直後が最も強く、時とともに薄れてゆくはずだ。慰安婦問題も八〇年代まで存在せず、米軍慰安婦の方が問題だった。歴史で現在の状況は説明し切れない。韓国には反日感情を生産、維持する社会システムがある。その中に生まれ育つと、自分が限られた情報の内に生きているという事実が認知できない。映画マトリックスに登場するカプセルの中のように仮想現実を見せられているのだ、と。
 自国は美しい山河に恵まれ、偉大な先祖が作り上げた素晴らしい文化を持ち、今や世界が羨む先進国と聞いて育つ。日本の姿は悪く、怖く、汚く表現され、朝鮮は文化的に劣る日本に対し、昔から一方的に恩恵を施してきたと教わる。しかし海外に行って肌で感じる外国人の反応はフレンドリーなものではなく、日本人に対して集まる「日本愛」を見て驚く。留学や仕事で日本へ行くと、教わってきた内容とは全く違う事実を目の当たりにする。ショックを受け混乱する。日本の繁栄と女性の美貌に仰天し、悔しがった昔の朝鮮通信使と何ら変わりない。
 韓国の反日システムは、歴代政権の政策とシステムを運用し利益を得る人々によって維持されてきた。反日を商売にして儲ける人々、日本政府から補償金を勝ち取ろうと誘う市民団体やマルチ商法、韓国政府が徴兵徴用経験者に支給する慰労金の存在、政敵を攻撃するために反日を利用する政治家、反日で南北を一致させる北朝鮮の陰謀、日韓両国の左派、学者、研究者、活動家、反日を業績として利用する人々など。彼らは既得権益の中にある。反日は生きるための手段なのだ。
 著者は韓国人に提案する。捨てるべきものは、全て日本が悪いという結論ありきの解釈、同じ民族の味方をするのが善という民族主義、韓国社会の常識に異説を唱える人へのバッシング。持つべきものは、懐疑的に考え、第三者の意見を尊重し、異説にも耳を傾ける姿勢。日本人にも提案する。日本国内のサヨク知識人による不正確な情報や間違いを整理し、申し訳なさそうな態度でむやみに謝ったり加害者意識で相手を眺めたりするのをやめる、など。
 一部読者は、日本人への提案を余計なお世話と感じるかもしれない。だが、ぶっきら棒に史実を突きつける形の直面化を避けているためか本書は読みやすい。内容も概ねバランス良く記述されている。日韓双方の人々にとって必読の書だろう。




▲ ページトップへ

xxviii )共産中国はアメリカがつくった

2012.11.29


共産中国はアメリカがつくった


ジョゼフ・マッカーシー著、本原俊裕訳、副島隆彦監修 二〇〇五年十二月 成甲書房

America’s Retreat from Victory, Joseph R. McCarthy, 1951.


1995年ベノナ文書公開により正当性が証明されたというマッカーシーの告発


 マーシャル・プランは米国が推進した戦後欧州の復興援助計画だ。G・マーシャルは時の国務長官。後にノーベル平和賞を受けた英雄を攻撃したのが、マッカーシズム(アカ狩り)の元祖マッカーシー上院議員。大戦後、米は東欧や中国を共産主義の手に渡さずに済んだ。それをむざむざ許したのはマーシャルの背信外交のせいだ、と。本著にその内容が綴られている。
 一九四三年の欧州戦線。米軍が伊に進攻し、バルカン半島から東欧に進軍する絶好の機会が来る。チャーチルも希望した。だが十二月のテヘラン会談で、当時の陸軍参謀総長マーシャルはスターリンと共に反対。戦勝後を予見する能力のないF・ローズベルトが二人に味方し、米は有利な伊戦線を放棄。以降、米は露偏重政策をとる。戦後欧州はスターリンが思い描いた世界になる。
 一九四五年二月のヤルタ会談で、ローズベルトは極東における露の要求の大半、特に満洲における特権を認めた。それはマーシャルが当時敗北を覚悟した日本が和平を探ってきた事実を隠し、露の支援なくして対日戦勝利はないと助言したからだ。識者によると、原爆投下は日本の降服をたった一日早めたに過ぎない。それでもマーシャルは日本本土侵攻を熱望した。
 戦後中国の内戦から米国がいかに撤退し、露の支える中国共産党の勝利を間接的に促したか。マーシャルはウェデマイヤー将軍による状況分析の報告書や進言を黙殺し、一九四八年の議会をやっと通った対中軍事支援すら妨害した。さらに朝鮮を分断したのも、朝鮮戦争が無意味な大量殺人となったのもマーシャルに原因があるという。
 監修者によると、ロックフェラー財閥の後押しで大統領になったアイゼンハワーは、任期最後の演説で「米を軍産複合体が支配している」と本音の怒りをぶちまけたという。監修者はさらに続ける。日本の運命も米の「雲の上」の人間たちに握られている。世界を牛耳る軍産複合体によって、新たな日中戦争への道を歩まされるのは必至だ、と。果たして軍産複合体陰謀説は真実か?私には解らない。
 ただ一つ納得できた。日米問わず、リベラル派はソ連や中国共産党の謀略、暴虐、平和破壊工作には目をつむり、自国政府を焚き付けて共産主義を助け続ける。著者も書く。西洋帝国主義は世界の発展を阻む邪(よこしま)なもの。露のそれは立派で推進対象。どんな犠牲も惜しむべきではない。これがリベラル左派の原則だ、と。今に通じる。胡散臭(うさんくさ)い平和主義には気をつけたい。




▲ ページトップへ

xxvii )誰が殺した?日本国憲法!

2012.11.18


誰が殺した?日本国憲法!


倉山 満著、講談社、二〇一一年五月



旧帝国憲法賛美と読めてしまう


 日本の未来は憲法にかかっている。条文を守るか変えるかではない、本当の意味で憲法を考えたい。憲法学専攻の本書著者はこう述べる。読むとまず我々の常識が試される。例えば人権である。人権は裁判所が守ってくれるはず。だがそれは建前らしい。大き過ぎることや小さ過ぎることを裁判所に持ち込まれては困ると言って、最高裁は憲法判断しないそうだ。戦後の東大憲法学権威は、人権こそ憲法の目的だと主張した。だが無制限の人権は必ず衝突する。人権は公共の福祉のためにある程度の制限を受ける。人権が憲法の目的だとは言えない。
 GHQによる憲法強制だが、明白な国際法違反であり、関係者の教養のなさと非常識に日本側は唖然としたという。またレッドパージ、検閲など憲法に違反する政策を次々と実施した。そもそも文明国は、国民の安全を保障する憲法を持って良い。しかし日本国憲法は日本を守れない。安全保障規定がなく有事を想定しない。戦後の東大法学部教授は、天皇制廃止は「改正」で、第九条を変えるのは「改悪」だと主張した。憲法九条を信じると有事にならない?まるでカルト宗教だ。
 誤った通説も存在する。戦後、日本は天皇絶対君主制から民主制になった。これはウソ。大正十三年から昭和七年、選挙による政権交代が行われていた。憲政の常道と称される慣例で、英では実現に何百年もかかった。明治憲法は非民主的で、選挙では常に政府が勝った。これもウソ。政府はどんなに妨害しても勝てなかった。短命政権が続いたが、個々の政党内閣は強力に政策を推進した。民衆は憲法制定と議会の開会を求め藩閥官僚が渋々認めた。これもウソ。憲法と議会は幕末以来の悲願だった。他にも問題点は存在する。日本では何かするのは難しく、邪魔するのは簡単。拒否権を持つ者が本当に強かった。帝国議会では衆議院がそれに相当。戦争やれ!税金まけろ!と実現不可能な要求を突きつけた。現在も状況は同じで、何も決められずに政治が漂流する一因となっている。常態化している総選挙を経ない政権たらい回しや、書かれていないなら何をやっても良いという風潮も、問題点として指摘している。
 こうして憲法は殺されたし今も殺されていると、著者は主張しているように思える。なるほど。憲法の成り立ちに関する正確な知識に基づき、本来の精神に沿った論議を重ねてゆくべきだ。ただ何故か日本帝国憲法を褒めすぎているような印象を受け、その点がやや心配。




▲ ページトップへ

xxvi )アメリカはアジアに介入するな!

2012.11.15


アメリカはアジアに介入するな!


ラルフ・タウンゼント著、田中秀雄、先田賢紀智訳、芙蓉書房出版、二〇〇五年七月



誤解を生みかねない邦題は、きっと現代日本の国益に一致しない


 ソ連は一九二二年に外蒙古を中華民国から剥ぎ取った。一九二九年に満洲に侵攻して戦った。だが世界は非難しなかった。他方、日本は一九三二年に満洲国を樹立する。非難され世界から孤立。ソ連はやりたい放題。日本はダメ!何故なのか?長年疑問だった。日中戦争から対米英戦突入直前の一九三七〜四〇年、世界世論はどのように形成されたか?欧州と極東で米国は中立たれ!と訴えた少数派による本著作集は、冒頭の疑問に対する答えも含め多くの洞察を与えてくれる。
 一九四〇年の「国際紛争を求めて平和を望まぬ者たち」が秀逸だ。当時世界を分割していた英仏は日独の擡頭を望まない。共産国家ソ連と容共中国を味方につけた。米国を引き込み日独と戦わせようとする。日独は反共。まんまと成功して第二次大戦となる。筆者によると米メディアはソ連シンパだった。英仏露中を平和主義、国際主義、民主主義、無辜の国々と呼び、日独を軍国主義、独裁、侵略者、残虐と呼んだ。
 実情は?ここ百年、戦争で領土を拡げたのは英仏米の順。英仏こそ軍事力で世界を支配する残虐な侵略者。平和主義ではない。ソ連と中国は世界一二位の独裁国家。選挙をしない中国が民主主義?日本の兵力は中ソの十四分の一。これで世界を征服できる?中国は日本を盛んに挑発。だが戦争になると「挑発してないのに、圧倒的兵力を誇る日本軍に、警告なく急襲される丸腰の平和主義中国人」と宣伝。だが被った損失からすると日本は隠忍自重した。そんな苦悩なしに、かつて米は米西戦争をしかけ第一次大戦に参戦した。米製品不買、禁輸、米船舶への海賊行為、群衆に米国人が襲われ盗賊に誘拐される。どこでだ?中国だ。中国人は最も信頼でき、日本人は他人を騙す?蒋介石夫人の宋美齢は米で笑顔を盛んに振りまく。しかし、かつて蒋介石は米国人追放、外資系企業没収を叫んだ。すべてが真逆。憎悪を煽り立て米国を戦争に駆り立てるウソだ。
 著者は米メディアを容共反米の戦争屋と呼ぶ。米国は彼らの嘘のプロパガンダに乗るな!と訴える。米国でも反響は大きかった。本書によりプロパガンダに依らない世界情勢がリアルに浮かび上がってくる。そして真珠湾攻撃の愚かさも。日本は対米交渉に真面目に取り組み過ぎた。米国中立を尊重し英仏と分断する。それで充分だったろう。ただ邦訳タイトルは疑問である。米国をアジアに介入させない戦略は、当時はともかく現代日本の国益には合致しないだろう。




▲ ページトップへ

xxv )中国の戦争宣伝の内幕 日中戦争の真実

2012.11.11


中国の戦争宣伝の内幕 日中戦争の真実


フレデリック・ヴィンセント・ウィリアムズ著、田中秀雄訳、芙蓉書房出版、二〇〇九年十一月、原題:Behind the news in China、1938年


恐るべし!史実を捻じ曲げる中国のプロパガンダ


 一九三〇年代、極東の危機について中国のプロパガンダが氾濫していた。誰も日本を弁護しない。米国人は中国贔屓の情報を事実と考える。日中戦争での焦土作戦はナイーブな人々を感動させ、残酷な侵略者に対抗して身を守る高貴な行為と讃えた。しかし実態は、中国兵がいつも自国民にやっている放火、掠奪、強姦、虐殺だ。沢山の偽写真も新聞雑誌に載る。代表作は爆撃による廃墟に泣き叫ぶ赤ん坊の写真だ。中国機が上海を爆撃し日本側を挑発したのに、日本人の無法行為として世界に配布された。千人が写真を見た。一人が否定した。だが信用されない。実に賢いプロパガンダトリックである。他にも蒋介石が高給で雇った作家らによるウソが拡がった。
 通州で共産主義者が日本人二百六十人を虐殺した。焼けたワイヤーを少女たちの鼻から喉へ通し、鼓膜を破り、目玉を抉り出し、通りに生きたまま吊り下げ、揺れる身体を銃弾で蜂の巣にした。家々では何時間も悲鳴が聞こえた。中国兵が男女の手足を切断し、強姦し、拷問したのだ。この虐殺は歴史上最悪の集団屠殺として記録されるだろう。だが世界は中国側の残虐な挑発行動を知らない。後日、日本兵は捕まえた犯人らを釈放。日本に住む中国人六万人も平和に生活していた。
 十九世紀半ば、列強は日中両国を世界貿易競争に加わるよう誘った。日本は成長し列強のライバルになった。指導者が腐敗していた中国は列強の奴隷となった。日中に争いが起こると、中国は外国人を殺戮し掠奪した過去も忘れられ、突然同情と援助に値する国家として持ち上げられた。日本は中国軍閥と匪賊の非道と貪欲を知っていて満洲から放逐。支那人が嫉妬するほどの国に変えてしまった。毎年数千万人が満洲国に殺到した。高賃金で働け、治安と暮らしぶりは較ぶべくもない。いま学校、工場、鉄道、幹線道路、ビルディングができ、零落した村はなくなった。
 著者を日本のエージェントと非難する人がいる。だが、南京大虐殺を主張するラーベやティンパーリを、中国の手先と言わないのは何故か。反対意見が圧倒的な中、著者は主張した。日中どちらが残虐か?好戦的か?秩序に貢献したか?ずっと騙されているより真実を知った方がよい、と。覚悟を要しただろう。事実日米開戦後、米国で有罪判決を受けた。ちなみに、戦後中国人は通州事件の写真を南京大虐殺の証拠写真として悪用する。恐るべし。知らずに謝り続ける日本人の滑稽さ。さらに恐るべし。




▲ ページトップへ

xxiv )暗黒大陸中国の真実

2012.11.06


暗黒大陸中国の真実


ラルフ・タウンゼント著、田中秀雄、先田賢紀智共訳、芙蓉書房出版、2007年9月


お人好しの日本人は現代ふたたびスケープゴートにされるか?


 十九世紀前半、ある宣教師は驚くべき光景を目にする。車数台に生身の人間が積まれ、手の甲が釘で車に打ち付けられていた。役人は説明した。ある村で盗みがあった。全員捕まえればその中に犯人がいる。それで連行した、と。周りの中国人は誰もそれを不自然と思っていなかった。彼らは自国民である匪賊、盗賊、強盗、軍閥兵士、国民党軍兵士、役人から、略奪され、足を叩き切られ、虐殺され、強姦されていた。義和団事件や一九二六年の南京虐殺では外国人が標的になり、略奪、放火、射殺、負傷を負わせられ、強姦され、侮辱行為を加えられた。
 本書著者は、一九三一〜三年、上海と福建省で米副領事を勤めた。日米開戦後、日本擁護姿勢ゆえに米国で逮捕投獄される。中国人とは誰か?普遍性ある特徴は何か?彼がありのまま過激に書いたのは次の通りだ。残忍、平気で嘘をつく、敵の心を読み弱点に付け込む、他人を信用しない、責任感がない、金がすべての現実主義、口先だけの道徳、感謝をしない、宗教に精神性を求めない、恩を仇で返す、賄賂漬け、人類共通の人情がない、大義に殉ずる心がない。
 宣教師は不思議にも中国人に迎合した。中国人の暴虐に最も苦しんだのは他ならぬ宣教師なのに。ミッションスクール校舎は放火された。焼いたのは同僚中国人や教え子だ。中国に生涯を捧げた女性宣教師二人が「帝国主義者の手先」として拷問のうえ殺された。辛亥革命以降の二十一年間、カトリック宣教師だけで四十七人が殺害され、三二〇人が身代金目当てで逮捕され、うち三人が拘留中に死亡。本当の意味で何人が信者になったか。ある宣教師は息子に語った。「一人もいない。名目上は数千人もいたが、真の信者はたった一人もいない」と。
 二十世紀前半、なぜ世界は親中国、反日だったのか。著者は説明する。一つは、中国人が演技上手で同情を得る天才であり、英米の新聞を反日プロパガンダで狂奔させたからだ。二つ目は、中国を知る外国人、特に宣教師が母国に真実を伝えなかったからだ。中国人の真実と残虐性を知らせるとサポートが得られない。宣教活動中止だ。米国での情報源は宣教師である。中国にいる宣教師は圧倒的に多い。日本は清潔で発展していた。哀れを誘わない。対して中国はどん底だ。米国人は可哀想な方に愛着を持つ、と。スケープゴートにされた方は堪らない。お人好しの現代日本人は真実を知ろうとしない。同じ運命をたどるだろう。暗澹たる思いだ。




▲ ページトップへ

xxiii )So Far from the Bamboo Grove (竹林は遥か遠く)

2012.10.14


So Far from the Bamboo Grove


Yoko Kawashima Watkins著、HarperCollins Publisher、1986年


韓国人が受け入れたくない知られざる歴史


 一九四五年七月二十九日夜遅く、十一歳の少女Yoko Kawashimaは、姉Koと母に連れられ、住んでいた朝鮮半島咸鏡北道(かんきょうほくどう)のNanamという街を脱出する。そこは満洲との国境に近く、満洲で仕事をしていたYokoの父親と家族全員が共産ゲリラに命を狙われていた。他方、軍需工場に動員され留守だった兄Hideyoは、仲間たちが虐殺される中をくぐり抜け、三人の後を追う。親切な朝鮮人農夫一家に生命を助けられ、臨津川(イムジン河)を渡って助かる。
 病人でいっぱいの列車に共産軍兵士が乗り込んできた。Yokoたちは医療スタッフにかばってもらい助かる。乳飲み子が死に遺体をやむなく車外に放り出され、半狂乱になる母親の泣き叫ぶ声を聞いた。妊婦の出産があった。看護婦が赤ん坊の産湯として、簡易トイレの尿を使う姿も見た。ソウルの手前70km地点で列車は飛行機の急襲を受け、母娘三人は線路伝いを歩く。渓谷にかかる鉄橋を渡る。共産ゲリラに襲われ、間一髪のところで爆弾が破裂し命拾いする。その際にYokoは耳と胸を負傷。ようやくソウルに到着し、病院で傷の手当を受けた。
 貨物車両に乗り釜山に到着。そこは独立を祝う祭りの最中だった。日本女性だとわかると韓国人男性数人に取り囲まれ、路地裏に連れて行かれ強姦された。年頃のKoは母に髪の毛をバッサリ切ってもらい、胸に布を巻いて男性の格好をした。Yokoの髪型もハリネズミのようにし、トイレはKoと共に男子用を使った。三人は何とか守られ、福岡行きの船に乗り込み、やがて日本の大地を踏むことができた。道中も日本に着いてからも、ゴミ箱の食べ物で飢えをしのぐことがあった。YokoとKoが肩を寄せ合いながら健気に暮らす様子は涙を誘う。
 Yokoは後に米国人と結婚し渡米。一九八六年、この自伝小説を英語で出版した。本書は「第二次大戦の知られざる一面」とアメリカ図書館協会のリストに載り、賞を受け、公立中学校の副読本に指定された。韓国語に翻訳されたが「虚偽によって誹謗した」と中傷され、韓国では発禁処分になる。在米韓国人の反対運動にも遭い推薦図書から外されたという。正しい歴史認識をと日本に要求する人々は、自国民の中に日本人を虐殺しレイプした人がいるという記述が容認できない。著者は印象が強すぎないようにと控えめに記述したという。本書は反韓国の意図などない。反戦の著作だ。そもそも、どちらかが完全に正しく他方が全て悪いなどということはあり得ない。バランスの取れた見解が持てない二国間関係。残念だ。未邦訳。




▲ ページトップへ

xxii )嘘だらけの日米近現代史

2012.10.12


嘘だらけの日米近現代史


倉山 満著、扶桑社新書、二〇一二年九月



物足りない!逆に偏っている!そういう双方からの指摘もあろうけれど一読の価値あり


 学校で習ったか、おぼろげに知っている通説がいかに歴史的事実からかけ離れているか!本書は米国の歴史と日米近現代史に関する私たちの常識をとことん揺さぶる。
 米建国の歴史は捏造だらけ。対英独立戦争をしかけたが連戦連敗。逃げ回っていただけ。仏が英に宣戦布告してくれたおかげで勝利できた。ワシントンは十三の国家連合の議長で初代大統領ではない。憲法も国家間条約にすぎない。北部に奴隷制はなかったが、黒人には自由がなく差別されていた。南部諸州が連邦離脱し南北戦争となる。奴隷解放のための正義の戦争だと噓の宣伝をして勝った北部は、徹底した復讐裁判で南部指導者を裁く。連邦離脱権など最初からなく、反乱州との内戦だったと歴史を改竄(かいざん)した。
 ワシントン会議最大の主題は対日対策ではない。英米交渉だった。十九世紀、大英帝国は世界二位三位の海軍国を足した量を上回る海軍を維持しようとしていた。ところが米が対等を要求。屈辱だった。日英同盟も破棄され日本の恨みを買う。会議が残したのは日英米恨みの三角関係だった。結果的にソ連が得をする。英米覇権交代のさなか、共通の敵がいるのに敵味方を見誤った。そこから悲劇が始まる。
 満州事変以降、日本の数々の国際法違反に米は切歯扼腕していたが、経済制裁しか行えなかった。中国への後方支援を断つため、日本は無謀にも米に真珠湾攻撃をしかけ敗戦への道をたどる。著者はこの通説も一刀両断。ソ連が出て来ないのは何故か?仮想敵ソ連に対抗して満州国を作ったのに、日本は何故か中国内陸に攻め入ってしまう。共産主義者の挑発に乗った結果だ。米は中国に関わるつもりはなかったのに、日本を挑発し経済制裁する。ハル・ノートを書いたホワイトはソ連スパイだ。日本は英およびインドネシアを支配する蘭と戦うだけでよかった。当時の英に援軍を送る余裕はゼロ。アジア・太平洋地域に日本の敵は消滅する。これで米もお手上げ。経済制裁の効果は消滅して中国は日干し。何故日本はわざわざ真珠湾を攻撃してあげたのか!戦後、米は真の敵がソ連と共産主義だったことに気付く。日本人は劣等感と罪悪感を植付けられて今に至る。かくて日米は本来必要のない戦いをした。世界大戦の真の勝者はソ連だった、と。
 偏った情報だけ使っている。人をバカにした表現が目に余る、などの指摘もある。だが本書の内容自体は、一つの歴史観しか知らない私たちを覚醒させてくれる。一読の価値はあろう。




▲ ページトップへ

xxi )世界史のなかの満洲帝国と日本

2012.7.8


世界史のなかの満洲帝国と日本


宮脇淳子著、ワック文庫、二〇一〇年十月



忌避されていた満洲史研究に光をあて、我々の常識を疑うよう提案している著作


 日本列島の外に出て行った日本人はみな悪いことをした。私たちはそう教えられた。だが本書著者は言う。中国人や朝鮮人はみな良い人で、日本人は全部悪かったなんて、少し考えれば変だとわかる。歴史に道徳を持ち込んではいけない。歴史は法廷ではない、と。では、なぜ日本人が大挙して満洲に出ていくことになったのか。その背景を理解するために、満洲の地理、民族、隣国との関係を、歴史のはじまりから説き起こす。
 清朝は、満洲人が蒙古人と連合して漢人を統治し、西蔵と回族を保護する五族同君連合だった。乾隆帝の時に最大版図となるが、北からはロシアが浸食する。まず黒龍江北岸と沿海州を奪われ、日清戦争、三国干渉を経て、旅順、大連が租借地となり、東清鉄道敷設権もロシアのものとなる。義和団事件を機にロシアは住民を多数虐殺しながら満洲に侵入。そのまま居座る。朝鮮をめぐり日露戦争が勃発。日本が負ければ、満洲と朝鮮はロシア領になっていた。
 清朝が倒れて中国は軍閥割拠となる。ロシア革命後、コミンテルン主導の排日運動が始まる。国民党政府には満蒙を支配する力がなかった。何の貢献もせずに、日本が多大な犠牲を払って得た正当な権益を攻撃し、無償で返せと言う。それは許せない。当時の日本人はそう考えた。こうして満州事変を経て満州国建国に至る。国策により沢山の人が移り住んだ。終戦時、満洲には約二百二十万人の日本人がいた。開拓移民の女性と子ども一万人以上がソ連侵攻で殺され、収容所生活で十三万人が亡くなり、シベリア抑留の六十万人のうち六万人が死亡。
 ソ連は日本軍の武器弾薬を接収して共産党軍に供与。国民党軍は遅れて進軍。満洲各地で国共両軍が激突した。一時は国民党側が優勢だったが、一九四八年、ついに吉林(きつりん)を失い、やがて共産党軍が満洲全土を支配。翌年、中華人民共和国が成立する。毛沢東は、全根拠地を失っても、東北さえあれば社会主義革命は成功すると語り、実際その通りとなった。だが、いまの中国人は満洲帝国の遺産で中華人民共和国が誕生したなどと絶対に認めない。
 著者は提案する。満洲帝国とこれら日本人の歴史を日本史の一部として扱おう。当時の満洲は今と全く違って、想像を絶することが次々に起こった。日本の対処はあまりに稚拙だった。どうすれはよかったか。まず正確な史実を調べ、しっかり考える必要がある、と。なるほど。本書の提案は日本の今の常識に真っ向から挑戦している。




▲ ページトップへ

xx )東アジア「反日」トライアングル

2012.6.28


東アジア「反日」トライアングル


古田博司著、文藝春秋、二〇〇五年十月



絶えざる贖罪は決して和解に貢献しない


 戦後、大学には左翼系知識人が集まった。彼らは日本の過去すべてを否定。東アジア地域に聞こえる不協和音は、日本の過去に原因があると考え、中国や朝鮮に対する絶えざる贖罪こそが、地域の和解と協調に貢献すると結論。しかしこの論理は未熟だった。そう気づいた人がいま現れ始めている。本書は東アジア思想史研究家による東アジア「反日」論。著者によると、東アジアの不協和音は、中国や朝鮮半島国家の中華思想と反日ナショナリズムの調べから来る。彼らは日本人を道徳的に攻撃し続け、反日を永遠にやめない。
 かつて西洋が東アジアに迫り、日本のナショナリズムは刺激され、二つの志向性が生まれた。西洋諸国の承認を得た近代国家として自立する道と、東アジア諸国と連帯し近代化に引き入れて西洋に対抗する道である。結局どちらも破綻する。その時、中国共産党や朝鮮は自ら戦ったのではなく、連合国が日本と戦った。そこで、彼らのナショナリズムは中華思想と結びつく。自分たちだけが道徳的に勝れている。日本人は道徳的に劣っている。残虐な人種である。日本を叩かずにいられない。彼らの反日の本質である。歴史教科書問題などは歴史的事実の客観的な検証によって解決したりはしない。彼らの歴史を「正史」とし「それを受け入れろ」と、道徳的に劣った日本に迫っているのだという。
 反日は永遠に続く。日本に求められている贖罪は底なしで、赦しは未来永劫ない。ではどうするか。究極の対処法はないが、彼らの攻撃に対し、微笑むべきは微笑んでかわし、押し返すべきは力強く押し返す。中華思想のボルテージを下げさせる。道徳云々で他国を攻撃することが近代にそぐわないと自覚させ、成熟をうながす。「正史」の強要が無駄であると知ってもらう。彼らの内憂を外患に転嫁しようとする意図は根気よく挫く。もう安直に謝ったりしない。毅然として彼らの卑しめの手に乗らない。これは互いの国家の尊厳のために是非必要な展望である、と。
 著者は、対中侵略や朝鮮植民地化と、明確な表現で日本の過去を断罪している。私たちは自分の過去から攻撃されているのだと語る。他国の研究者らと交流し大学で研究を続けるには、それが最低限の線かもしれない。東アジア史研究を道徳や政治と切り離し、独立させようとする取り組みの一つのあり方だろう。個人的にはもっと切り離し、その時代に自分が生きていたらという「同時代的アプローチ」が必要だと思えるが。




▲ ページトップへ

ixx )日本人はなぜ無宗教なのか

2012.6.20


日本人はなぜ無宗教なのか


阿満利麿(あまとしまろ)著、ちくま新書、一九九六年十月


多くの日本人は自然宗教の立派な信者であり続けている


 日本人の宗教観に関する古典的な本。それが新書版で手軽に読める。ありがたいものだ。日本人の七割が無宗教で、その七五%が「宗教心は大切」と答えるらしい。無神論ではない。著者は自然宗教と創唱宗教に区別して考える。キリスト教、仏教、新興宗教などは創唱宗教である。日本人の多くは、キリスト教などの信者ではないという意味で、自分が無宗教だと答える。我々は無意識に、宗教を習慣や儀礼と教義や布教に分けて考える。習慣や儀礼なら宗教ではなく抵抗もない。かくして初詣や七五三や地鎮祭は神社、お盆や葬式は仏教、クリスマスや結婚式はキリスト教というシンクレティズム(混交宗教)となる。それに対して教義は私たちに人生を奥底まで見つめよと迫る。日本人は抵抗を感じる。「喜びも苦しみも悲しみもほどほどに生きている。人生をかきまわされたくない」と。無宗教は自己防衛の表現だという。
 かつて日本人は宗教に熱心だった。「この世は夢。後生の救いをください」という祈りにあふれていた。著者は、日本人が宗教に無関心になってきた過程で、室町時代に入った儒教が大きな役割を果たしたとしている。しかし儒教の本格的な受容は江戸中期だ。戦国から安土桃山、江戸初期にあって、人々の持つ「いかに死ぬか。後生でいかに救われるか」という思いは、一向宗やキリスト教の豊かな苗床だった。
 無宗教者は、自然宗教の積極的な信者であることが多い。無宗教を自認する人でも墓参りに熱心だ。墓参りは自然宗教に属する宗教行為に他ならない。死者をホトケと称するのは仏教本来の教えではない。日本の自然宗教そのもの。ホトケとは伝統的なカミであるらしい。仏教は高度な哲学体系をもった宗教というより、死という穢れをぬぐいさる最新の呪術の体系として受容された。
 ところで宗教は明治維新政府の造語だという。自然宗教のたぐいを全く別に扱い、宗教という言葉をキリスト教、仏教などに当てはめた。心の内面で信じるのは良い。しかし布教は制限する。そういう方針をとった。天皇を神聖視する理論をキリスト教神学のように創設し「神道を宗教とは見なさない」と国民に教育した。こうした政策により、日本人固有の自然宗教は信仰と見なされなくなった。すると我々は無宗教になって、まだせいぜい百数十年しか経っていないようだ。多くの日本人は、無宗教と言われている中で、自然宗教の立派な信者であり続けている。恐らくそれが実態だろう。




▲ ページトップへ

xviii )ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて

2012.5.23


ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて


安田浩一著、講談社g2ブック、二〇一二年四月


「承認欲求や怨嗟が彼らを生んだ」だけと単に決めつけない方が良い


 こわい現実である。ネトウヨ(ネット右翼)がそのまま街頭に躍り出た。在日特権を許さない市民の会(在特会)が、日章旗を掲げながら在日朝鮮人や中国人の住む地域に街宣を仕掛ける。朝鮮学校などに押しよせ逮捕者を出す。いわゆる従軍慰安婦や中国人団体観光客に罵声を浴びせる。不法滞在のフィリピン人カルデロン一家に抗議デモに行く。リーダーは桜井誠。行動は動画でネットに流す。閲覧者は自宅で快哉を叫び、カンパを送金したり入会したりする。会員はごくごく普通の若者たち。どこか頼りなげでおとなしい。街宣で憎悪やレイシズムの言葉を浴びせる人々には見えない。著者は、在特会を含め新興ネット右翼のメンバーらにインタビューを重ね、時に威嚇され、罵声を浴びつつ、本ルポルタージュをまとめた。
 差別は本当にいけないことなのか?タブー破り、挑発こそネットのヒーロー。こうした土壌で在特会は生まれた。今世紀に入って格差と分断が明らかとなり、所属を持たぬ者たちが立ち上がる。拠り所は日本人のアイデンティティだ。「戦後体制」に素朴な疑問がぶつけられる。朝鮮人を叩き出せという叫びは「オレという存在を認めろ!」なる承認欲求に聞こえるという。著者は語る。格差と分断に直面したうまく行かない若者の承認欲求や怨嗟が「橋下人気」も支えている。在特会は「生まれた」のではない。私たちが「産み落とした」のだ、と。
 一人の朝鮮学校OBが「君ら日本に住まわせてあげてるんだから、もっと日本に感謝したほうがいいよ」と平凡な日本人から言われた。彼は、本当に怖いのは在特会じゃないような気がすると漏らしたという。日韓ワールドカップで、日本チームが負けて大喜びする韓国人の映像を流しながら、韓国を応援する報道を続けたマスコミ。中韓に媚びる知識人たち。私たちも何かおかしい、配慮しすぎじゃないのと感じている。でも公然と言えない。こういう空気がいつか反動を生むのかもしれない。
 最近ネットや書籍を通して、歴史的な事実関係に気づいた人々がいる。在特会とは別の方法で世の常識を問い直そうと声をあげた一団もいる。全てひっくるめてネトウヨとは呼ぶまい。彼らの存在や主張を、メディア(権力)は黙殺し続けている。著者は躊躇なく、日韓併合を植民地支配、在日を強制連行の犠牲者と呼ぶ。彼らの声を黙殺してはいないものの、承認欲求や怨嗟が彼らを駆り立てているとは、単純に決めつけない方が良いだろう。




▲ ページトップへ

xvii )世界史の誕生

2012.5.18


世界史の誕生


岡田英弘著、ちくま文庫、一九九九年八月


頭がクラクラするほど世界史の常識を揺さぶる本


 世界史についての常識を、頭がクラクラするほど揺さぶってくれる本だ。千年以上も支那文化に養われてきた日本人の歴史観では、どの政権が「天命」を受け正統であるかを問題にする。明治期に翻訳された「万国史」では、ギリシア、マケドニア、ローマ、ゲルマンから分かれた英、仏、独が主に取り上げられている。これは「天命」が伝わった順で、当時の三大列強を正統と認める構造になっている。この中国型「万国史」が西洋史になり、東洋史と並立している。それが日本の世界史だという。
 こうしたごちゃ混ぜをやめ、首尾一貫した世界史をめざす筆者が注目するのは、中央ユーラシア草原から東西に加わった力である。そこの遊牧民は定住地帯への侵入を繰り返し、まず地中海文明と中国文明を創り出した。同様の侵入が二文明のその後の運命を変える。モンゴル高原から移動して来たフン人に逐われ、ゲルマン人がローマ領内に侵入。その結果、西欧世界の中世が始まった。オスマン帝国がモンゴル帝国を継いだため、西欧人が海洋帝国に活路を求め近代が始まった。東でも、秦、漢滅亡のあと随、唐を形成したのは鮮卑など遊牧民で、これら王朝と競って勝ったのが、トルコ(突厥)、金、モンゴルである。中国は元朝で徹底的にモンゴル化され、いわゆる中国の伝統文化ができあがり、明、清、中華人民共和国に続いた。
 印、パキスタン、イラン、露、西アジアと北アフリカのアラブ諸国などは、すべてモンゴル帝国の継承国家。モンゴル帝国支配圏の外側で成長したのが、米、日、EUなど海洋国家である。ロシア人や中国人とは非支配階級の総称で、そのためどちらも無責任、無秩序を好み、強権をもって抑圧されなければ秩序を守らない。モンゴル帝国支配の後遺症らしい。一二七五年、世界最初の不換紙幣がモンゴル帝国で発行された。現代世界の指導的経済原理である資本主義も含め、モンゴル帝国は実に世界を創ったのだという。
 筆者は、十三世紀のモンゴル帝国成立の前後で時代を大きく分ける。前が世界史以前、後が世界史の時代。前者では各文明をそれぞれ独立に扱い、後者で初めて単一の世界を扱う。歴史家が自明のものとしてきた概念や述語を一度捨てるなら、「単一の世界史の叙述は決して不可能ではない。この『世界史の誕生』は、そうした叙述の最初の試みである」と結んでいる。こんな歴史家が日本にいた。驚きである。きっと多数派からは嫌われ疎んじられただろう。




▲ ページトップへ

xvi )コリアン世界の旅

2011.10.16


コリアン世界の旅


野村 進著、講談社 一九九六年一月


コリア系日本在住者の世界を旅して問うのは、日本人とは何かということ


 クラスメイトも、会社の同僚も、芸能界やスポーツ界のスターも、私たちが見知った顔には日本人しかいない。日本製のカバンや靴は日本人が全て作り、スーパーやお店も全て日本人が経営している。私たちの多くは信じてきた。だがそれは「虚構」だった。半島から日本に渡って来て、いわゆる「在日」として六十万人余りが日本にとどまることを選択した。さまざまな理由から、多くが出自を隠し通名(日本名)で暮らした。また近年では帰化する人の数も増えた。冒頭の「虚構」は、日常が見えないコリア系日本在住者が、日本の隅々で生活していることをさしている。本書の取材を続ける中で、日本人の目を眩ませてきた壮大な虚構の「謎解き」を見せられている気分だったと、著者は語る。
 メディアもタブー視して全く取り上げないか、強制連行、国籍条項、指紋押捺をことさら強調する在日問題として問題視するかのどちらかだった。筆者は、どちらも結局互いのためにならないと考えた。そこで選択したアプローチは、現在の世界に両国人を置き、できるかぎり相対的・普遍的な視点から諸々の事象を考えることだった。歌手にしきのあきらの取材から出発。焼肉やパチンコ業界関係者の取材を敢行する。海外に飛び、LAに住む在米コリアン、サイゴンで働く元韓国兵、済州島関係者を取材する。再び日本に戻り、朝鮮学校や総連関係者、阪神淡路大震災と神戸市長田区の人々、Jリーグのコリアンたちなど、コリア系コミュニティーと人々の姿を取材して旅を終える。歌手新井英一が歌う大作「長河(チョンハー)への道」の話は圧巻だ。
 作家の高史明氏は「日本が在日朝鮮人を抱え込んでいるというのは、非常に貴重なものを抱え込んでいる」と筆者に語る。在日コリアンの問題には様々な矛盾があってすぐには解決できないが、「百年、二百年と過ごせば、非常にいい熟し方をしていく」と続ける。矛盾を抱えながら生き続けることを大前提として受け入れる。氏はそれを内在肯定力と呼び、その力が国も人も大いに成長させると言う。本書を、在日問題として問題視する多数派意見と変わらないなどと批判する人もいるだろう。だが野村氏はコリア系日本在住者を可視化してゆく中で、日本人とは何かを問うている。あらゆる矛盾を抱えながら生きるという前提を問い直している。地域的にも歴史的にも大きなスケールで。謎解きの旅を一緒に如何ですかと、読者を誘っている。それは認めたい。




▲ ページトップへ

xv )島国チャイニーズ

2011.10.10


島国チャイニーズ


野村 進著、講談社 二〇一一年八月


国と人は区別して判断すべし


 日本人の八割が中国に親しみを感じない。無理もない。中国人留学生らによる福岡一家四人殺害事件や大分恩人殺害事件、毒入り餃子事件、反日暴動、尖閣諸島での漁船衝突事件と中国政府の高圧的対応などが続くからだ。こんな反中、嫌中が蔓延する日本に住む中国人は何を考えどのように生きているのか?ノンフィクション作家の著者は、二百人以上の在日中国人に取材した。マスコミ報道では知ることのできない、彼らのひたむきな人生模様を紹介した。
 私も日本人社会に入りたい。日本に恩返ししたい。日本は頑張れば認められるからいい。帰りたいとは思わない。意志の強い、向上心に富んだ中国人居留者は想像よりずっと多い。神戸中華同文学校関係者も次のように教える。日本の方々と仲良くしなさい。私たちは日本に住まわしてもらっている。だから、日本人に迷惑をかけたら絶対にいけない。日本にいる立派な人たちを尊重しなければならない。山形の農家に嫁ぎ、離婚や娘のうつ病を経験した女性も次のように語る。日本に来てよかった。娘も「日本に来てよかった」って。私はこっちに来てから人間がやわらかくなった。だんなも周りの人も娘に温かく接してくれて、日本人の温かさをすごく感じた。人生の中で大きなもの、お金じゃ得られないものを得た。
 在日中国人の大半が、日本は暮らしやすい、幸せ、と答える。日本が気に入らなかったら住まないですよ、とも。安全、清潔、便利、きめ細かなサービス。何にも増して、東日本大震災で世界を驚嘆させた日本人の「共同体主義」が受け入れられている。対極にある社会から来た人々には違いがよくわかる。たとえば次の如くである。見返りなく親切にし人の秘密は守る。信じられる。これが日本では普通である。親切には必ず『裏』がある。人から聞いたことは何でも別の人に言う。信じられない。中国ではそれが普通。だがら彼らは同胞の中国人よりも日本人のほうに信頼を寄せる。
 出自にかかわらず悪い人も良い人もいる。欠点のない人はいないし、みな長所を持ちあわせている。しかし我々はレッテルを貼りたがる。◎国人は云々、あの人は云々と。国際交流協会会長の日本女性は言う。中国という国はいいかげんでどうしても好きになれない。でも留学生にそういう気持ちを持ったことは一度もない、と。その方と同様に、国家と人を分けて考えたいものだ。日本の短所を認めた上で好きだと言ってくれる人たち。大切にしたい。




▲ ページトップへ

xiv )日本と世界を揺り動かす物凄いこと

2011.10.2


日本と世界を揺り動かす物凄いこと


増田悦佐著、マガジンハウス 二〇一一年八月



ダメなのは日本ではなく日本以外の方だ。蔓延する悲観論をぶっ飛ばす本


 世界の先進国も新興国もほとんどは一部のエリートが牛耳るエリート文明。対して日本は一般国民がしっかりしている大衆文明。日本の指導者は頼りないが、そのまま余計なことに口出ししないでいる方が良い。地球温暖化は科学的根拠がない史上最大の詐偽事件。その陰謀の張本人はエリートの一角を占めるオイルメジャー。国家ぐるみの粉飾決算をやっている米国の経済は必ず破綻する。ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン(PIIGS)は軒並みデフォルトの危機でユーロはやがて消滅。技術の裏付けがない中国経済は砂上の楼閣。バブル崩壊はすでに始まっている。生き残るのは日本だ!デフレと円高で日本経済はさらに強くなる!政府、官僚、メディアに騙されるな!彼らは「このままでは日本は衰退する」と危機感を煽るだけ。事実を見抜いていない。日本は大丈夫。今のまま進んで良い。以上が本書の内容だ。この本は常識を覆す主張で満ちている。
 著者はすごい速度で本を出版する経済アナリスト。a)内向きの世界帝国、日本の時代がやってくる。b)日本文明・世界最強の秘密。c)格差社会論はウソである。d)クルマ社会・七つの大罪、など。一貫して主張しているのは日本経済の強さと欧米中などの脆さである。著者に対する評価は大きく分かれる。「深い洞察力に裏付けられた鋭い指摘」という意見から「ホントとは思えない」「懐疑的」「トンデモ本」というレッテル貼りまで。歯に衣を着せずにズバズバ主張する姿勢に喝采を送るファンがいる反面、アクが強過ぎる、本人の経歴はエリートそのものでその主張と矛盾する、重複が多過ぎる、コピーペースト本!と嫌う人たちもいる。両極端である。
 現在の日本には悲観論が蔓延している。新聞もテレビも日本の暗い部分に焦点を当てる。逆に海外のことは明るいニュースを紹介する傾向がある。悲観論はマスコミの宣伝によるだろう。しかし著者は他人があまり使わない資料を用いて反論する。「ダメなのは日本ではない。日本以外の世界の方だ」と。日本には他国にないポテンシャルやファンダメンタルがある、と資料を示して日本の良いところを評価し元気づけてくれる。著者のファンや信者になれとは言わない。しかし、全世界を公平に眺め、統計資料を土台とし、良いところを評価する姿勢は学ぶべきではないだろうか。我々はバランス感覚に欠けている。著者はその偏りを正そうとしているのだろう。




<参考>


1)地球温暖化は科学的根拠がない史上最大の詐偽事件:年平均気温上昇と二酸化炭素排出量増加の相関はごく短期間で見られるのみ。相関が見られるのは太陽の黒点活動が活発な時期と一致する一九七五〜一九九八年の二十三年間だけ。それ以外は全く相関なし。特に一九九八〜二〇〇九年の十一年間で大気温は〇・六度下がっている。地球の大気温は、直近の氷河期が終了した一八三〇年から百年で〇・五度上昇したが、二十世紀通算でも百年で〇・五度の上昇にどどまっている。




▲ ページトップへ

xiii )ニッポンは誤解されている 国際派フランス人の日本擁護論

2011.9.11


ニッポンは誤解されている
国際派フランス人の日本擁護論


アルフレッド・スムラー著、長塚隆二・尾崎浩共訳、日本教文社 一九八八年六月



悪宣伝根絶の全責任を日本人が負わなくてよい


 偏見と侮蔑の常套句で日本人が悪く言われている。封建的、ユーモアなし、幸せ知らず、発明なし、物まね、群れる、個人主義の観念なし、攻撃的、残虐、軍国主義、狂信的、醜い、陰気、無宗教など。日本人はいちいち目クジラを立てない。しかし世にも奇特なフランス人がいた。我々に代わって非常識な常套句に反論し、偏見と間違いだらけの日本論を論駁する。来日せずに「菊と刀」を書いたルース・ベネディクトからその他ジャーナリストに至るまで一刀両断。
 著者は、レジスタンス闘士でアウシュビッツ送りとなり、戦後特派員として来日後東京に定住。対策も書いてくれている。曰く、反日ニセ宣伝の被害者は日本人だけではない。悪宣伝を根絶する全責任が日本人にあると思わなくてよい。絶滅はできない。真実に基ずく日本像再構築に努める以外にない。非日本人が主たる努力をしてくれる。こうした外国人に日本人は力をかすだけにとどめるべし。それも日本と隔てるものより結びつけるものに力点を置いた形で、と。なるほど。
 反日悪宣伝の一つに歴史の改竄がある。太平洋戦争は日本だけの責任で米国こそ道義の擁護者と米国は主張。だが戦争はヒトラーとソ連が欧州で始めた。当時孤立主義派優位の米国が参戦できたのは、経済封鎖で圧殺されかかった日本の真珠湾攻撃のおかげだ。参戦の目的は人種差別への反対でも民主主義を守ることでもない。米国の権益擁護と拡張が全てだった。以上を歴史家は表沙汰にしない。米国民大多数が真珠湾攻撃を「背信行為」と考え日本人を恥知らずとみなす。それはニセ宣伝に毒されている結果だ。レジスタンス活動家の著者から見ると、不意討ちとされる真珠湾攻撃のおかげで、米国が参戦しドイツによる全欧州占領が阻止できた。アジアの新独立諸国も日本の行動に感謝して良い。注目すべきは歴史の歪曲とニセ宣伝が日本人大多数を迷わせている点だ。事情に通じた人も国粋主義者と非難されるのが怖くて反発しない。こう著者は述べる。
 そもそも祖国日本が諸外国からどれほど誤解され敵視されているか知って驚く他ない。少なくとも自分は悪宣伝に加担して日本をさらに鞭打つ気になれない。本書発行は二十三年前。著者も他界した。残念ながら、本書に続く意見が多数を占め、誤解や敵視が消滅したという話を聞かない。在住外国人が海外に紹介したくなるような心打つストーリー。そういった話題にこの日本が満ち溢れて欲しいものである。




▲ ページトップへ

xii )ザ・コールデスト・ウィンター 朝鮮戦争 上・下

2011.9.4


ザ・コールデスト・ウィンター
朝鮮戦争 上・下


デイビッド・ハルバースタム著、山田耕介・山田侑平訳、文藝春秋 二〇〇九年十月



歴史をもっとマクロに見ることには失敗か?


 米国にとって太平洋戦争は栄光の戦いだった。しかし朝鮮戦争はどうか?帰還兵は多くを語らず誰も注意を払わないという。この戦いの意義を、米国は未だ見出せないでいる。本書は、骨太な現代史テーマに次々と取組んだ偉大な米国人ジャーナリストによる最後の作品。
 スターリン、金日成、毛沢東、トルーマンの思惑と誤算が重なり、一九五〇年六月、北朝鮮は三八度線を突破し南に侵攻。東京のマッカーサーと取巻き連中は現実を直視せず、味方を苦境に陥れる。その後の仁川上陸、半島分断作戦は成功した。しかし敵軍を挟撃する機会を逸する。米韓は北へ軍を進めた。中朝国境の鴨緑江に敵を追い落とし、戦争はクリスマスまでに終わるはずだった。だが毛沢東は大軍を朝鮮半島に潜入させる。国連軍は中国軍の全面的な反攻に遭遇しズルズル後退。現地指揮官リッジウェイが全軍を立て直し盛り返す。マッカーサーは中国との全面戦争を主張しワシントン批判を展開。やがて解任される。そのあと消耗戦が繰返され、一九五三年七月に休戦協定が結ばれる。米国人犠牲者と行方不明者は計四万四千人以上。
 一枚の衛星写真がある。まばゆい光に輝く南と漆黒の北。帰還兵は自分に言い聞かせる。このために俺たちと死んだ戦友は戦ったんだ、と。米国は多数の犠牲者を出して韓国を救った。確かに、隣国が今の自由と繁栄を享受できるのは米国の犠牲による。ここで疑問が浮かぶ。隣国には何故、恩を受けた米国に反発する人が多いのだろう?逆に納得する。米国にすら感謝しないなら、ましてや日本が隣国の独立や近代化に果たした犠牲と役割を評価する人は皆無だろう、と。
 著者は政治指導者達の思いを考察し、現場指揮官らの葛藤や努力を巧みに描く。朝鮮戦争の全貌を巨視的に書いて成功している。しかし残念ながら、過酷な植民地支配、残虐、圧政の如きお決まりの日本批判を、何ら検証なく繰返している。また歴史をもっとマクロに見ることにも失敗している。日本は極東でずっと、共産主義に対する防波堤と近代化推進力の役割を果たした。その重要性を理解せず米国は日本を叩き潰した。ソ連参戦の何ヶ月も前に戦争を終結できたのに、極東に第二戦線を作るまで引き延ばした。その結果、対共産主義の防波堤とパワーバランスは崩れ、中国赤化を許してしまう。米国は朝鮮戦争で手痛いツケを払った。下巻の帯に「すべては歴史の前にひれふす」とある。もちろん私もひれ伏す一人となる。




▲ ページトップへ

xi )日本は世界五位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率

2011.8.28


日本は世界五位の農業大国
大嘘だらけの食料自給率


浅川芳裕著、講談社+α新書 二〇一〇年二月



日本農業は弱いか?生産額ベース自給率を使って攻めの成長戦略を提案する常識破りの本


 日本は世界最大の食糧輸入国。自給率四一%は世界最低レベル。輸入停止で国民は飢え苦しむ。日本の農業は弱い。儲からない農業は保護すべし。構造的問題を抱えた日本農業に成長はない。後継者不足で耕作放棄地が増加。これが我々の常識である。農水省やマスコミが喧伝する。
 しかし本書著者は問う。日本農業は弱いと誰が言ったのか?データは?日本農業規模は世界五位。先進国で二位。日米英独仏五カ国で比べて、農産物輸入総額、国民一人当たりの輸入額、輸入量、対GDP農産物輸入比率ともに第四番。生産額ベース自給率は六六%で先進五カ国中第三位。国内農産品シェアは一番。日本の輸入依存度は最も低い。生産量世界ランキングは驚きだ。日本のネギは世界一位、ホウレンソウ三位、ミカン類四位、キャベツ五位、イチゴなど六位。ジャガイモ二十二位と健闘。日本農家の生産性は著しく向上した。日本農業の実力は過小評価すべからず。日本農業弱者論は事実無根である、と。
 次に食糧自給率向上政策がいかに無意味か論ずる。農水省のカロリーベース自給率を使う国は他にない。低い自給率を示して実力ある日本農業の弱さを印象づけ、輸入停止の危機感を煽る。今後の方向性は示さず不安感を漂わせる。コメ減反は「このままだと農業をやめる人と耕作放棄地が増えて自給率が低下する。転作奨励金をよこせ!」と国民を恫喝する政策。補助金(税金)と高価格という二重負担を国民に強いている。農水省は天下り団体と農協にラクをさせ、努力なしで彼らが生き残れる道を作る。すべては農水省のため。省益あって国益なし。食料自給率向上政策は農家と国民を不幸にする愚策である。
 最後に日本農業成長八策なる成長戦略を提言する。地域単位の農協でなく、作物別全国組合によって世界マーケティング戦略を展開。日本の科学技術をもとに、農業関連資機材や知的財産権などのビジネスを海外展開し一兆円市場を創る。世界輸出市場での日本シェアを〇・二%から一%にし一兆二千億円の市場を創出。海外農場への進出を目指す農家を政府が支援するなど。これらで市場規模拡大、所得増大、関連雇用創出、税収増を見込む。新規需要約九兆円で既存約八兆円とあわせて先進国第一位となる。投入税金は三千億円だけ。
 ここまで常識が覆されると逆に気持ちが良い。農水省も政党も馬鹿げた政策を掲げ続けてきたものだ。ウソの情報空間を破壊するインパクトある著作のように見える。




▲ ページトップへ

x )文明の衝突と21世紀の日本

2011.8.21


文明の衝突と21世紀の日本


サミュエル・ハンチントン著、鈴木主税訳、集英社新書 二〇〇〇年一月



バンドワゴニング?超大国でさえ他国と連携します


 二十一世紀、地球規模の一体化は進まない。世界は他文明化し、対立、衝突する。米国の一極支配は終焉し一極・多極体制となる。一九九三年の「文明の衝突」は衝撃だった。本書では「二十一世紀日本の選択」という論文が加わり、豊富なCG図版、概念図で「ハンチントン理論」本質が概説される。
 世界は、西欧、東方正教会、中華、日本、イスラム、ヒンドゥー、ラテンアメリカ、アフリカの八文明に分かれる。競争的共存関係となり時に激しく対立する。特に、中華文明の台頭とイスラムの復興は、紛争の主な源となり政治的不安定をもたらす。唯一の超大国は一極体制を好む。自国を慈悲深い親切な支配者と考え、米国の原則、習慣、制度の普遍性と正当性を主張。他国にも押し付けるため世界の中で孤立する。今後は、超大国と地域大国とのあいだ、地域大国と地域ナンバー・ツーの国とのあいだ、隣接する地域大国どうしの関係がより対立的になる。
 日本の特徴も語る。1)日本は文明としての孤立国家。2)西欧化しなかった日本と米国には文化的差異が存在する。今後も、欧米間のような打ち解けた思いやりある親しい関係とはなりにくい。3)西欧文明と中華文明の分裂線上で日本は揺れるだろう。日本外交は、日英同盟、三国同盟、日米同盟と、常に勢力ある大国に追随してきた(バンドワゴニング)。米国が超大国の地位を失うなら日本は中国と結ぶ可能性が高い、と。
 著者の予見は日本外交の参考とすべきだ。しかし異論もある。a)超大国、地域大国、ナンバー・ツーの国、その他という四つに国力レベルを分類する。日本は、中国、インドネシアなどと一緒の地域大国だが、「潜在的に」という但し書き付きである。他方、但し書きなしで、ヴェトナム、韓国などと一緒にナンバー・ツーの国に分けられている。基準は何なのだろう?b)日米同盟は確かに大国追随だが、日英同盟は露の南進阻止という両国利害一致の結果だ。三国同盟は名目上のものにすぎなかった。超大国ですら他国と連携する。果たしてバンドワゴニングは適切な用語だろうか?c)やがて「分裂する中国」なる中華文明の特質が浮上するだろう。しかも隣国からナショナリズムと覇権主義志向は消えない。とすると誰が見ても、未成熟で粗野な覇権よりも米国の成熟した覇権の方が好ましい。中西輝政氏は巻末の「解題」で指摘する。自信をもって、文明のアイデンティティと国益が両立する道を選びとろう、と。




▲ ページトップへ

ix )在日・強制連行の神話

2011.8.7


在日・強制連行の神話


鄭 大均著、文春新書 二〇〇四年六月



強制連行論のウソ!ようやくふさわしい関係が作れる


 映画パッチギで、アボジが「わしらは強制連行され過酷な労働をさせられたんじゃ」と語る。聞く主人公と観客は何と残酷なことかと恥じ入る。政治家もマスコミも教科書も日本人の悪行を語る。今や常識である。
 しかし、在日一世の父を持つ著者は、強制連行論を批判する意見の方に共感するという。その理由は何か。1)日本国民に運命共同体のような義務が課せられていた戦時中、エスニック日本人男性は戦場に送られた。コリアンは労務動員だった。後者は戦場に行くより不条理かつ不幸だと言えるのか。2)在日一世のナマ証言はほとんど、より良い生活環境を求め教育を受けるために、自分の意志で渡日したというもの。3)数字も紹介する。終戦時、在日コリアンは約二百万人。その八五%は金儲けや教育を受けるため来た人々とその家族。密航者も多数いた。残り十五%の大部分は鉱工業や土木事業の募集に応じた者。国民徴用令が半島に適用された期間は一九四四〜五年のわずか七ヶ月間。4)戦後、応募者、徴用者ほぼ全員を含め、全体の七〇%が朝鮮半島に帰還した。三〇%が残留し在日コリアンとなった。とどまったのは自由意志による、と。
 敗戦直後の在日コリアンは、敗戦国の無力な警察を嘲笑しつつ、暴力と脱法行為で我がもの顔に振舞った。超満員の列車から日本人を引きずり下ろし自分たちが占領する。そういう光景は決して珍しくなかった。在日コリアンのイメージは、七〇年代までは残念ながら「無法者集団、火焔ビン、やみ商売、犯罪」だった。だが、八〇年代からは教科書問題や外国人に対する指紋押捺制度が取り上げられる。日本のマスメディアが戦時下日本の国家犯罪と在日コリアンへの差別問題を語る。そこで強制連行論がにわかに大衆化する。隣国に対する加害者性を語る時の手軽なキーワードとなる。かくて在日コリアンのイメージは変化する。著者は次のように語る。強制連行という言葉でコリアンの被害者性と日本人の加害者性を強調するが、ミスリーディングと言わざるを得ない。特に、姜尚中と辛淑玉らは祭司的、巫女的な語り口で怒りを振りかざす。その姿はゾッとするほど欺瞞的である、と。
 在日コリアンは強制連行犠牲者とその末裔という話は事実無根だった。強制連行論の擁護は、「何でも他人のせいにするコリアン」という不名誉な通念を補強してしまう。健全で善良なコリア系日本人までもが誤解される。著者の問題提起に賛意を表明したい。




▲ ページトップへ

viii )何があっても日本経済は破綻しない!本当の理由

2011.7.31


何があっても日本経済は破綻しない!本当の理由


三橋貴明著、アスコム 二〇一一年六月



日本は奇跡の国、経済は大丈夫、増税より国債発行でデフレ脱出、既成概念とは真逆の主張


 日本経済は失われた二〇年を経て破綻の道を一直線。デフレという病魔に冒され、大震災が追い打ちをかける。日本のピークはもう過ぎた。経済成長など見込めずあとは衰退するだけ。こうした悲観論が蔓延している。何とかしたい。どうするか?もともと個人的には財政再建派で増税に賛成だった。ところが正反対を言う人がいる。何故か?理解できなかった。そんな時にこの本を読んだ。
 政府が支出を切り詰めることは絶対的「善」。どんな需要不足でも国債は発行しないほど良い。何の疑いもなく我々は考える。しかし著者は言う。復興税など身を切ってでも役立ちたいという思いは崇高だが、国民経済には逆効果。復興需要を増税によって摘み取らないで欲しい。企業や家計では支出の切り詰めは「善」。ところがマクロ経済においては全く違う。みんなが支出を切り詰めると需要が減る。デフレである。日本の諸問題はデフレという需要不足に端を発している。だがデフレ対策はあまり研究されてこなかった。逆に、増税、利上げ、規制緩和、構造改革などインフレ対策はいくらでもある。ではどうするか?正反対のことをする。金融緩和を拡大する。防災のための公共事業を展開する。失業者を公務員として期限付きで雇用する。規制緩和を強要するTPPへの参加は見送る。増税せず、逆に防災減税を行う。
 財源は?国債で賄う。著者は述べる。日本の国債利払いは対GDP比で一・三%と主要国中最低。今は借りる方が賢明。日本の経常収支はずっと黒字。良いものが世界で売れている。円高は当然の結果。財政破綻の淵にある欧州五カ国とは違う。我々が使わないお金で国が人を雇う。結果的に増収となる。需要を産み出し経済成長に換える。インフレが心配?その時こそ増税や規制緩和をすれば良い。日本は供給能力がすべて残っている「奇跡の国」。ネジのような上流の小さい部品から最終生産材までをすべて自国で賄える国。そんな国はまずない。国内企業の熾烈な競争がその根源。競争の結果、高品質なモノとサービスが国民に提供されている。その供給能力は全力で確保すべきだ、と。
 主張は明快である。既成概念でいっぱいの頭をリフレッシュし、発想を逆転させることも時に重要だ。奇跡のような日本に自信を持て。必ず成長へと転ずることが可能である。デフレ下の増税は反対。全力でデフレ脱却し、その後増税し財政再建に取組む。我々は考え方の舵を切るべきなのか。それとも…。




▲ ページトップへ

vii )大日本帝国の興亡(1)暁のZ作戦

2011.7.24


大日本帝国の興亡(1)暁のZ作戦


ジョン・トーランド著、毎日新聞社訳、早川書房 一九八四年七月



共産主義、ファシズム、人種偏見の犠牲となった日米関係


 日米戦争に関するノンフィクション。アジア共産化を危惧していた二大国が、なぜ衝突したのか。日本人妻を持つ米国知識人が一九七〇年に書いたピューリッツァー賞受賞作。その日本語版である。
 大陸への侵略と残虐行為を日本側の原因として挙げる一方、著者は米国側の要因にも言及する。曰く、米国は日本人移民を締め出し、日本人が怒って当然の人種偏見により憎悪と不信の種子をまいた。ハル四原則にある道義的主張の偽善性を認めるべきだった。英国は植民地でそれほど道徳的ではなかったし、米国自身も中央アメリカにおいて『砲艦外交』を行なうなど、自らの要求に反する行為を平気でしていた。結局、米国が唱える正義や道義は自己の利益のためにすぎなかった。米国のように天然資源と広い国土に恵まれ、外国に攻撃される恐れもない国が、どうして日本のように小さく、ほとんど資源もなく、常にソ連のような仮借ない隣国の脅威にさらされている島国の立場を理解することができただろうか。
 一九四一年夏まで、米国は解決困難な中国問題に関与したいと本心では思っていなかった。主要な敵はヒトラーだった。しかし米国外交官たちは極東に戦争をもたらす政策を選び、逆に中国を見捨てることになった。日本をナチスドイツと同類視してしまい、祖国を完全に性格の異なる二つの戦争に巻き込んだ。一つは欧州でのファシズムに対する戦い、一つは白人支配からの自由を求める東洋人の願望につながるもの。日米双方に英雄も悪漢もいなかった。ただ『時勢』だけが責められるべきものだった。もし共産主義とファシズムという二大イデオロギーがなかったら、日米が戦うことは永久になかっただろう。つきつめると、悲劇の源は英米に無視されることを恐れた日本がヒトラーと結んだところにある。こんな同盟は名目以上の何ものでもなかった。さらに相互の誤解、言葉の違い、翻訳の誤りにより、相互不信がさらに増幅され、必要のない戦争が始まった。ハルが日本の乙提案に融和的な回答を出していたら、来るべき数十年に禍根を残す重大な誤りを犯すようなこともなかったろう、と。
 これは米国の公式見解ではない。お決まりの形で日本を非難してはいる。しかし、我々が信じる「日本だけが悪玉だった」という視点はない。遥かに公平で客観的だ。米国元大統領フーバーも言う。「そもそもアメリカは日本を挑発しない限り、決して真珠湾を攻撃されることはなかっただろう」と。




▲ ページトップへ

vi )日韓がタブーにする半島の歴史

2011.7.17


日韓がタブーにする半島の歴史


室谷克実著 新潮新書 二〇一〇年四月



恐れずに、半島史研究のウソとバイアスを指摘している


 倭国は任那(みまな)日本府を通して朝鮮半島南部に影響力を及ぼしていた。かつて学んだ教科書の記述が現在は姿を消している。文部科学省は「近年は任那の恒常的統治機構の存在は支持されていない」と主張。文明も人も半島から日本に来た。天皇は半島南部を出自としている。こうした説が流布され一部常識化している。
 だが「常識」は科学的ではないらしい。分子人類学や考古学の最新研究によると、多数の縄文人が半島に行って暮らした。稲作も列島の方が早かった。後期前方後円墳が半島南部に多数造られ、新羅地方にも倭式墳墓が多数ある。古墳文化は日本から半島に伝わった。半島南部が倭国の影響下にあったのは事実らしい。半島最古の「三国史記」、大陸の「三国志」「後漢書」「随書」などの史料がある。これらを素直に読むとどうなるか。随書は「新羅(しらぎ)も百済(くだら)も倭国を大国と見ている。優れた品々が多いためで、新羅も百済も倭国を敬仰し、常に使節が往来している」と紹介する。「遅れた列島vs進んだ半島」の印象はない。後漢書は「半島の南部=倭国の北部=分国」、三国志魏志倭人伝でも半島南部「狗邪韓国(くやかんこく)」を「倭国の北岸」としている。当初の倭国は「倭奴国+半島にある分国」を指しており新羅と倭国は地続きだった。それが素直な読み方のようだ。三国史記によると、新羅王二十人のうち八人は倭人または倭種だった。古事記、日本書紀抜きでこの結論だ。驚きである。
 そもそも研究は、思想、先入観、歴史観から全く自由な立場で「事実」だけに忠実であるべきもの。だが韓国の研究者は都合の悪い表現を素直には読まない。逆に日本人研究者は相手に都合が悪いと思われる表現をかなり割り引く。配慮し阿(おもね)る。著者は、戦後日本の史学研究界全体が「左翼反動」の嵐に曝されていたと見る。戦前の歴史研究はすべて皇国史観だから脱却すべきだという嵐だ。古代史作家黒岩重吾氏も「任那という言葉を口にするのさえはばかられるような雰囲気」「任那に倭人がいたとする説でさえ皇国史観と非難され、なにか重戦車で押し潰すような雰囲気」があったと語る。強いバイアスのかかる半島史研究。恐ろしいほど不健康でイビツだ。
 古くから我々の祖先は半島に進出し、優れた品々を半島に伝えた。ただ、三国史記自体に信憑性は薄い。「新羅王二十人のうち八人は倭人、倭種」というところは読み飛ばした方が良いだろう。




▲ ページトップへ

v )日本人のルーツの謎を解く

2011.7.2


日本人のルーツの謎を解く


長浜浩明著 展転社 二〇一〇年五月



大陸や半島に比べ日本が遅れていたという常識のウソ


 日本人は東アジアの最後進民族。紀元前三〇〇年頃に稲を持ったボートピープルがやって来るまで、日本列島は「縄文時代」という闇の中にあった。大陸や半島の先進性に比べて、日本は狩猟採集生活を何と八千年も続けていた。文明も日本人も起源はみな半島経由。司馬遼太郎や山本七平は著作の中でそう語る。
 分子人類学とはDNA解析により人類の起源を明らかにできる学問だ。今ではミトコンドリアDNAから女性の、Y染色体DNAから男性のルーツが解明できる。稲のDNAやプラントオパールの解析も進んだ。いつ頃どこからどのように稲作が伝わったかは既に決着済み。日本全土で遺跡が数多く発見されたことと質量分析機の導入により、考古学も格段に進んだ。言語学の研究から日本語の形成過程と成立年代が推定できるようになった。これら研究の成果をマクロな視点で統合し判断することで、日本人の起源と有史以前の歴史が解き明かされる。
 日本では、すでに一万六千年前に世界最古の土器を造り、九千年前に世界最古の漆器を造り、四千五百年前には高床式建物を精巧に組み上げ、巧みな航海術により伊豆諸島の黒曜石を八千年前に本州に運んでいた。日本の米作りは、何と六千年前縄文前期から途切れることなく続いていた。しかも三千年前には灌漑設備も整った水田稲作がなされていた。分子人類学的には、日本人の祖先は一万年以上にわたる列島の主人公、縄文人だった。弥生人が縄文人を滅ぼし日本人のルーツになったという説は否定された。逆に、韓国人の一部にも縄文人DNAが存在する。日本語は今から約五千年前に成立していた。北方(樺太、沿海州、シベリア東端)ツングース系の人々が南下して北海道、東北、関東地方を中心に住みついた。南方(東南アジアなど)オーストロネシアン系の人々が北上して沖縄、九州から近畿地方にかけて住みついた。その二つが交流することから、言語的混合が起こって日本語が誕生した。これらが「歴史的真実」だ。
 日本は後進国だった。縄文人は滅びて半島経由の弥生人がとって替わった。マスコミ報道も歴史家や小説家や研究者も、みな口をそろえて宣伝する。しかしそれは大ウソだった。こうして自国の歴史を過小評価して見下す発想は、有史以前の歴史についても私たちの心に刷り込まれてゆく。常識が覆されるのはいつのことになるのか。ただ、データ提示は簡潔ではない。まず結論ありきと誤解されるリスクは要注意か?


<参考>


1)有史以前の歴史:文字で書かれた史料が存在する以前の歴史。
2)ツングース系:アルタイ語系ツングース語と日本語は「私は・本を・持っている」という語順や助詞、助動詞などの文法的な共通点がある。その反面、日本語で大切な接頭辞や豊富な語彙はツングース語にない特徴である。
3)オーストロネシアン系:マダガスカル、マラヤ、インドネシア、フィリピン、台湾、南太平洋、ニュージーランドの諸言語圏。国立民族博物館、崎山理氏の研究により、上代日本語語彙の約八割がオーストロネシア語由来で、接頭辞もオーストロネシア語と共通点が多いことが判明した。
4)DNAの異なる両者が邂逅した地が本州中央部。両方の民族が混じり合う接点として、関東や中部地方からATL(成人T細胞性白血病)のキャリアが減少し、言語も混じり合い醸成されて行ったという。
5)本書は決して読みやすい内容が盛り込まれているわけではない。著者の書きっぷりは必ずしも読み手に優しいものとは言えない。その点には注意して読み始めるのが良いだろう。




▲ ページトップへ

iv )完訳 紫禁城の黄昏 上・下

2011.6.12


完訳 紫禁城の黄昏 上・下


R.F.ジョンストン著  中山 理訳、渡部昇一監修 祥伝社 二〇〇五年三月



岩波書店が隠しておきたかった歴史的事実


 著者は、清国ラストエンペラー「宣統帝溥儀(せんとうてい・ふぎ)」の外国人教師を勤めたスコットランド人。原著は歴史的な一級資料である。現代文での邦訳は岩波文庫に収められた。だが、岩波文庫版は序章が虫食いのように省略され、第一章から第十章までと第十六章が訳されずに出版された(一九八九年)。そこには何が書かれていたのか?岩波書店にとって何か不都合があったのか?
 一九一一年に清王朝が滅亡。一九二四年、前皇帝「溥儀」は乱暴な扱いを受け紫禁城から追放される。急進的な支那人は煽動した。処刑を!と。ジョンストンは安全のため、前皇帝を外国公使館区域に避難させる。受け入れたのが日本公使館だった。それ以来、日本は執拗に非難攻撃される。支那大陸を侵略するための狡猾な策略の結果だ、と。しかし、当時の芳沢公使は前皇帝が公使館区域に到着することすら知らなかった。ジョンストンが熱心に懇願したからこそ、前皇帝を手厚く保護することに同意したのだった。
 清国は満州族の王朝である。一六四三年に北京に入城し、満州と支那はいわば「結婚」をした。持参品が満州だった。今や支那との結婚が破綻。追放された満州族は持参品である祖国に帰る権利を当然持っていた。満州人、蒙古人の中には、満州独立運動の支持者がいた。一九二八年には先祖の墓が支那人により破壊され陵辱された。前皇帝は決意する。日本の力を利用し祖国満州に帰ろう。日本にとっても、当時の満州は排日侮日運動のため在留邦人の安全と権益を確保することが非常に難しかった。両者の利害が一致した。その結果として一九三一年に満州事変が起こった。翌年の満州国建国に至る。
 ジョンストンの原著には以上のようなことが書かれていた。平和で争いのない支那大陸に突然残虐な日本軍が来襲した。こうした中国共産党や日本左翼による宣伝は真っ赤な嘘のようだ。当時大陸では、共産主義者の謀略と殺戮、軍閥間の絶えざる戦争のため、民間人が常に危険に曝されていた。無政府状態の中で苦しんでいた。その中で前皇帝の不幸に同情を寄せたのがジョンストンらと日本公使館だった。人道的措置だった。満州事変は一概に日本の侵略とは言えないと主張する人々がいる。本著がその根拠となる。中華人民共和国が建前とする反日抗日の歴史が見事に覆ってしまう本だ。岩波書店が意図的に省略した部分には、日本人に知って欲しくない歴史的事実が書き綴られていたのだった。




▲ ページトップへ

iiia )驕れる白人と闘うための日本近代史

2012.11.20


驕れる白人と闘うための日本近代史


松原久子著、田中 敏訳 二〇〇五年、文藝春秋


白人支配の世界世論に挑戦した日本人の著作。我々も堂々と歴史の真実を述べて良い


 私たちはどれだけ歴史の真実を知っているか?この本は、誰かが書く歴史をそのまま信じやすい私に強烈な一撃を加えてくれた。心ない外国人が抱く日本人に対するイメージは偏見に満ちている。欧州五〇〇年の成果を盗んだ、猿真似、封建的、残虐、個人の考えを持っていない、など。
 当時、筆者はドイツで作家、評論家として活躍していた。テレビ局のゲストなどとして招かれ、日本人であるが故の偏見や批判を一身に浴びながら懸命に反論を重ねた。そんな氏が日本近代史をドイツ語でまとめた。その邦訳である。内容は平易。原題は「宇宙船日本」。江戸時代、人々は限りある資源を循環させながら有効に活用し、階級間格差が非常に少なく富を平等に分配し、奴隷制もなかった。民主的に物事を決め、争いごとが少なく仲良く暮らせる社会を実現していた。教育、経済、通信、交通などのインフラは、産業革命に至る準備としてすべて整えていた。鎖国時代に全くの独力で。明治以降の産業革命と日本の発展は、何ら驚くことではなかった。諸外国から導入した技術に対しても、すべて正当な対価を支払った。
 逆に、残酷で野蛮だったのは白人たちの方だった。欧州は貧しかった。オリエントの方が圧倒的に豊かだった。彼らは白人仲間のキリスト教徒を奴隷(スレイブの語源はスラブ人)として売り飛ばし、羨望の品々を手に入れた。戦争、暴力、虐殺で、アジア、アフリカ、新大陸の富を奪った。大航海時代も、産業革命も、世界の豊かさを我がものにしようとする欲望がすべての動機だった。真の動機を突きつけられて白人は猛反発する。氏に街頭で平手打ちを食らわせるほど。「腹立たしい。でも真実だから仕方がない」と言わせるほど。副題「真実と挑発」は言い得て妙だ。
 訳者の田中氏によると、著者は言葉によって日本を弁明、防衛している貴重な日本人である。日本の伝統文化の紹介や解説は、異国趣味と外交辞令もあって海外では歓迎される。だが弁明は激しい抵抗にあう。誤解に反論し史実をきちんと伝えると、悔し涙を流すほど傷つき、大きな困難に遭遇するという。黒を白とまでいって自己正当化を憚らないしたたかさ。自分たちから見た歴史が世界の正しい歴史であるという確信。それが欧米人の特徴である。著者に続く日本人がもっと出てきてほしい。戦う武器は歴史の真実、知識、知恵のみ。ただ先の世界大戦に至る過程についての史実認識は甘い。また邦題はあまりに過激だ。




▲ ページトップへ

iiib )驕れる白人と闘うための日本近代史

2011.4.9


驕れる白人と闘うための日本近代史


松原久子著、田中 敏訳 二〇〇五年、文藝春秋


白人優越感の世界世論に挑戦した日本人の著作。我々も堂々と歴史の真実を述べて良い


 私たちはどれだけ歴史の真実を知っているか?誰かが書く歴史をそのまま信じやすい私に強烈な一撃を加えてくれたのがこの本だ。心ない外国人が抱く日本人に対するイメージは偏見に満ちている。欧州500年の成果を盗んだ、猿真似、封建的、残虐、個人の考えを持っていない、など。
 当時、筆者はドイツで作家、評論家として活躍していた。テレビ局のゲストなどとして招かれ、日本人であるが故の偏見や批判を一身に浴びながら懸命に反論を重ねた。そんな氏が日本近代史をドイツ語でまとめた。その日本語訳である。内容は平易。原題は「宇宙船日本」。江戸時代、人々は限りある資源を循環させながら有効に活用し、階級間格差が非常に少なく富を平等に分配していた。奴隷制もなかった。民主的に物事を決め、争いごとが少なく仲良く暮らせる社会を実現していた。教育、経済、通信、交通などのインフラは、産業革命に至る準備としてすべて整えていた。鎖国時代に全くの自力で。明治以降の産業革命と日本の発展は何ら驚くことではなかった。そこで諸外国から導入した技術にもすべて正当な対価を支払った。
 逆に、残酷で野蛮だったのは白人たちの方だった。欧州は貧しかった。オリエントの方が圧倒的に豊かだった。彼らは白人仲間のキリスト教徒を奴隷(スレイブの語源はスラブ人)として売り飛ばし、羨望の品々を手に入れた。戦争、暴力、虐殺でアジア、アフリカ、新大陸の富を奪った。大航海時代も、産業革命も、世界の豊かさを我がものにしようとする欲望がすべての動機だった。真の動機を突きつけられて白人は猛反発する。氏に街頭で平手打ちを食らわせるほど。「腹立たしい。でも真実だから仕方がない」と言わせるほど。なお、本書のドイツ語副題は「真実と挑発」。真実を示され挑発と受けとる人々の反発をさす。
 氏はキリスト者ではない。キリスト教に批判的でもある。しかし本書には、キリスト者の世界観の偏りをただす真実がある。パラダイムシフトをもたらす力がある。私は、日本人宣教のための福音の文脈化(コンテキスチュアリゼーション)を心から願うようになった。福音が本格的に宣教され始める前から日本は創造主なる神さまから「意外と」愛されていた。主に愛されている日本に生まれて良かった。特別啓示としての主の愛を日本人に本気で伝えたい。そして、日本人にはそれを受け入れる素地がある。そう思い始めるきっかけを作ってくれた本だった。




▲ ページトップへ

ii )下流社会 新たな階層の出現

2010.3.28


下流社会 新たな階層の出現


三浦 展(あつし)著、二〇〇五年九月、光文社新書



データの扱いは素人で根拠や信憑性にも疑問点満載だが、問題提起としてはわかる


 世は格差社会だそうだ。平等、機会、教育、学力、コミュニケーション、ジェンダー、結婚、労働、生活、消費、経済、年収、就職、雇用、転職、リストラ、ニート、フリーター、貧困、ひきこもり、パラサイトシングル、メンタルヘルス、社会階層、多くの言葉が躍る。本書は、中流意識の終焉と下流社会なる階層集団の出現を描いている。階層意識を分析した結果だ。ここで下流とは食うや食わずではない。中流に比べると何かが足りない、中の下のことだ。
 では何が足りないのか?それは意欲だ。コミュニケーション、生活、労働、学び、消費、人生への意欲が低く、所得は上がらず、未婚率も高い。中流であることへの意欲がなく、中流から降りる人だ。だらだら歩いて生きている者もいる。楽だからだ。かつて日本は上昇気流の中にいた。上は素晴らしいはずと期待した。しかし七合目くらいで周りを見渡すとみなそこそこ豊かだ。努力せずとも生きられる。苦労して頂上に登ろうとしなくなった。すると降りるだけになる。
 著者は類型化する。女性はミリオネーゼ系、お嬢系、ギャル系、かまやつ女系、普通のOL系の五つに分ける(図1)。男性はヤングエグゼクティブ系、ロハス系、SPA!系、フリーター系の四類型だ(図2)。下流の特徴的な意識は何か?自分らしさ志向や自己能力感だ。自分らしさ派は、高収入が得られず生活水準が低下。自分には人より優れたところがある。そういう自己能力感の強い人は、学習時間が短く高学歴を求めずに現状志向。彼らはコミュニケーションを避け、社会への適応を拒み、未婚、子どもなし、非正規雇用のまま年をとり、階層意識も満足度も低い傾向となる。子どもがいても学習の機会が奪われ、下流から抜け出せない。格差の連鎖、希望格差である。
 このまま放置して良いのか?パラサイトシングルの子の親は、定年後もずっと働かなくてはならないと覚悟を決める。下流社会の一部は労働、税金、年金、医療保険などで社会貢献することなく年をとる。逆に生活保護を受け、メンタルヘルスの課題を抱え、医療費がかかり、税金を投入せざるを得ない存在となる。処方箋やいかに?日本の政策決定に重く深くのしかかる課題である。著者の提案が巻末にいくつか載っている。だが残念ながらまともに読めた内容ではない。本著は八十万部以上売れたという。解決を提言する著作が登場し、百万部以上売れるようになってもらいたい。そう思うのは私だけではないだろう。




 図1 女性の類型化


 図2 男性の類型化


参考


1)著者は類型化する:上昇志向か現状維持か?仕事志向か趣味(専業主婦)志向か?著者はこの二つのベクトルで分析した時に、それぞれがどこに位置するかで類型化した。女性は図1に示す通り。ミリオネーゼ系(脚注2)は上昇志向と仕事志向がともに高い。お嬢系は上昇志向と専業主婦志向が強い。ギャル系は現状志向と専業主婦志向が高い。かまやつ女系(脚注3)は現状志向と仕事志向が目立つ。普通のOL系はどれも中位である。男性は図2に示す通り。ヤングエグゼクティブ系は上昇志向と仕事志向がともに高い。ロハス系(脚注4)は上昇志向と趣味志向がともに強い。SPA!系(脚注5)は現状志向と仕事志向が高い。フリーター系は現状志向と趣味志向が強い。
2)「ミリオネーゼ系」:学力が高く、職業志向の強い女性、主に四年制大学を卒業した女性が、企業の中で総合職のキャリアウーマンとなり、男性と同じ賃金で働くようになった。こうして1000万円以上の年収を稼ぐ女性を「ミリオネーゼ」という。この語は、「Six Figure Women」の翻訳、「ミリオネーゼになりませんか?」を出したディスカバー21という出版社の造語。
3)「かまやつ女系」:専門学校などを出て、美容師、ペットトリマー、菓子職人などの資格職種、デザイナー、ミュージシャンなどのアーチスト系を目指すタイプ。一般的には「手に職系」、ファッション的には「ストリート系」と呼べるが、ファッションの特徴から、著者三浦 展が「かまやつ女系」と名付けた。
4)「ロハス系」:いわずと知れた「Lifestyle of Health and Sustainability」(健康で持続可能な生活様式)、スローライフ志向のグループである。比較的高学歴、高所得だが、出世志向は弱い。ヤングエグゼクティブ系に対しては「教養がなくて暑苦しい奴」と内心軽蔑しているという。
5)「SPA!系」:雑誌「SPA!」の主要読者と思われる「中」から「下」にかけてのホワイトカラー系の男性。特に勤勉でも、仕事好きでもなく、才能もないが、フリーターになるようなタイプではなく、仕事をするしかないので仕事をしているというグループ。




▲ ページトップへ

i )心でっかちな日本人 集団主義文化という幻想

2010.3.27


心でっかちな日本人
集団主義文化という幻想


山岸俊男著、二〇〇二年二月、日本経済新聞社


世界が驚く「思いやりある日本人の心」は、やがて変容してしまうのか?!


 集団主義文化は心のあり方の結果か?心の性質やあり方こそ文化そのものである。集団主義文化は世代を通して安定したものか?世代に関係なく安定して継承される。我々はそうした信念のもとに、問題を議論し将来を予想してきた。だが本書著者によるとそれは誤解らしい。
 イジメを黙認する子どもたちは、他人に対する思いやりの心が欠けている。我々は疑問を抱かずにそう考える。しかし著者は述べる。心のあり方に説明を求めることは誤りである、と。ベトナム、ソンミ村での虐殺の場面を考えよう。殺さないでくれと懇願している村人を前にした兵士が上官に抗議するかどうかは、他の兵士がどう行動するかに依存する。一緒に抗議してくれる仲間の人数、すなわち頻度に依存する。子どもたちもイジメに抗議して立ち上がり、自分がイジメの対象になるリスクを侵したくない。見て見ぬ振りをした方が自分にとって得だ。著者はこれを頻度依存行動と呼ぶ。その結果、いわばある種のバランス状態に達する。それを相補的均衡と呼ぶ。イジメがない別のバランス状態にもシフトしうる。イジメのあるなしは、思いやりの心と関係がない。著者はそう主張するのだ。
 日本人は自分の集団をひいきする。内集団ひいきの行動という。しかし社会学的な実験により、著者は次のことを明らかにする。集団主義的な行動が好きなのではない。頻度依存行動をとっている。内集団ひいきする相補均衡状態にある。また次のように予測する。日本では今後その集団主義が急速に終焉を迎える。これまで社会を安定させていた、集団主義的な内集団ひいきの原理が消滅する。社会を不安定化させる別の相補均衡状態にシフトする可能性がある。しかも取って代わるべき原理が一般化する前に。社会秩序を維持する原理がない、いわば真空状態を生み出す恐れがあるというのだ。
 文化は心のあり方とは違う。頻度依存行動の相補均衡状態となってゆく。そうであるなら日本は今後どうなるのか。我々はどこに漂流してゆくのだろう。今後どう未来を見据えていけば良いのか。正直、動揺を覚えた。パラダイムシフトを実感した。社会学恐るべし。ただ詳細な実験内容や専門用語が紹介されていて、必ずしも一般読者向けとは言えない。心でっかちという表現は独特すぎる。シックリこない。文章も複雑で、全体として決して読みやすくはない。だが、分かり易く解説しようという工夫はちりばめられている。一読の価値はある。




▲ ページトップへ

123