メンタルヘルス OWL のひとりごと
Ⅲ)睡眠障害
2014.2.7
睡眠障害
眠れない!とても多い症状です。いくつかタイプがあります。次の三つが組み合わさったタイプもあります。
a)ベッドに身体を横たえても眠りに入れない 入眠困難
b)夜中とちゅうで目を覚ます 中途覚醒
c)朝早く目覚めてそのあと眠れない 早朝覚醒
だれでも何度かは経験します。では一晩か二晩ねむれない夜があると「不眠症」なのでしょうか?答えはノーです。一般には、a~c)のため体力が回復せずにとても苦しかったり、日中の活動に障害をもたらしたりする状況が1ヶ月以上続いている時、それを「不眠症」といいます。
<睡眠障害のいろいろ>
睡眠障害は、1)精神疾患などにともなうもの、2)睡眠それ自体の異常、3)睡眠にともなう異常な症状や行動、4)その他に分類できます。
1)精神疾患などにともなうもの
睡眠障害でもっとも多いのが、何かの病気にともなうものです。精神科では、統合失調症、うつ病、不安障害の患者さんが眠れなかったり寝すぎたりします。内科の病気でも不眠や過眠がみられます。
言うまでもありませんが、合併している病気を治療する必要があります。単純な不眠症と区別するためにも、是非専門家に相談することが必要です。
2)睡眠それ自体の異常
睡眠それ自体の異常は、他の疾患が認められず、睡眠以外に大きな行動異常や症状がないものをいいます。いわゆる(純粋な)「不眠症」が該当します。この病気でつらい思いをしている方は少なくありません。
一般の精神科の病院、クリニック、心療内科で診療が受けられます。睡眠障害を専門としているクリニックや外来もあります。
他にまれなものとして、ナルコレプシー、睡眠時無呼吸症候群などがあります。 どちらも睡眠障害専門外来に紹介します。
ナルコレプシーは、強い眠気の発作を症状とする脳疾患です。日中、場所や状況を選ばず突然、眠気発作が起こります。
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠時に呼吸停止または低呼吸になる病気です。日中の過眠などの症状を伴います。この厳密な定義にあてはまらないものに「いびき・歯ぎしり不眠症」と呼ばれるものがあります。
3)睡眠にともなう異常な症状や行動
睡眠それ自体より異常な症状や行動をともなうものには、夜驚症、夜尿症、睡眠麻痺、睡眠関連摂食障害などがあります。
夜驚症(やきょうしょう)は、睡眠中に突然起き出して叫び声をあげる症状です。だいたい、数分から十数分間症状が続き、目覚めた時に覚えていません。小学校入学前から小学校低学年の児童に見られます。ようすをみるだけで大丈夫です。
夜尿症(やにょうしょう)は、5、6歳を過ぎても継続的にオネショが認められる状況です。自分の意思とは無関係です。本人に非はありません。それでも落ち込んだりコンプレックスを持ったりします。叱らずに家族でサポートすることが重要です。たいへんな場合は小児科専門医に相談しましょう。
睡眠麻痺はいわゆる「金縛り」です。眠っている時の全身脱力と意識覚醒が同時に起こる状態です。不規則な生活、寝不足、過労、時差ぼけやストレスなどから起こります。人が上に乗っている。自分の部屋に人が入っている。耳元で囁かれた。体を触られている。このような幻覚を伴う場合もあります。 睡眠麻痺を霊的に解釈することには賛成できません。
睡眠関連摂食障害は、過食症が睡眠時に現れるものです。原因は主にダイエットによるストレスです。食べて満足するとそのまま寝床へ戻ります。症状を自覚しないことが多く、ダイエットをし始めた後体重が増加するのが特徴で、食べた形跡が残ります。
4)その他
その他には、睡眠6時間未満でも生活できる短時間睡眠者、平均以上の睡眠時間を必要とする長時間睡眠者や、日中の眠るべきではない場面、仕事中、食事中、会話中などに何度も居眠りをしてしまう過眠症などがあります。過眠症以外で専門家に相談することは稀でしょう。
<睡眠障害の治療>
睡眠障害がどのように治療されるか概説します。 もっとも多くみられる「何かの病気にともなう睡眠障害」といわゆる単純な「不眠症」だけを取り上げます。
一般的に、A)睡眠にかんする正しい知識を共有し、B)生活リズムや生活習慣の課題を明らかにし、C)考えや行動に変化をもたらし、D)正しい薬物療法をおこないます。
A)睡眠にかんする正しい知識の共有
私たちには体内時計がそなわっていて、その周期は25時間です。放っておくと私たちはどうしても夜ふかしになります。
しかし、私たちの身体では睡眠ホルモンが出て、睡眠を助けています。睡眠ホルモンは周りが暗いと分泌され、光に反応してその分泌が止まります。夕食後、やや暗めな部屋ですごすことによって睡眠ホルモンが適度に分泌されます。
日中、光を浴びながら活動して適度に疲れ、適度な周期で分泌される睡眠ホルモンの影響により、睡眠周期が24時間に近づきます。
B)生活習慣や生活リズムの課題を明らかにする
不眠の症状でつらい思いをしている場合、多くは長年にわたって確立された生活習慣や日ごろの生活リズムと無関係ではありません。
たとえば次のような課題がないか振り返ります。睡眠リズムに深刻な影響がおよんでいる結果だったり、影響を与えかねない生活習慣だったりします。
昼夜逆転になっている。
眠気がくるまで、何時まででも、昼間や夕食後と同じような活動を続ける。
ベッドにはいる直前までテレビや映画を観つづける。
また、パソコンや携帯電話の強い光を発する画面を見つづける。
寝る前に激しい運動をしたり熱いお風呂に入ったりする。
蛍光灯のあかりのもとで眠る。
本を読みながら(灯りのもとで)眠くなるのをまつ。
テレビや映画を観ながら眠る。
パソコンや携帯電話を操作しながら眠くなるのを待つ。
夜に重要なことや解決困難なことを家族や他のだれかと話し合う。
なんらかの興奮をかかえながらベッドにはいる。
床についてから電話で人と話す。
音楽やラジオなどを聞きながら眠る。
寝る時間がつねに深夜12時を超えている。
C)考えや行動に変化をもたらす
上記の課題が見つかれば、それを修正します。治りたいなら、言い訳はいっさいしないことがたいせつです。
寝ているときの部屋は暗いほどふさわしい環境を作れますが、完全な暗さが不安感や恐怖感をかきたてる場合は、部屋の中のものがようやく判別できるほどの暗さでも十分といわれています。
夕食後は部屋の照度を下げ、睡眠ホルモンが出やすい状況を作ります。朝は太陽の光をできるだけ浴びて睡眠ホルモンの分泌をストップさせます。
私たちの身体は、体温が1度さがると自然と眠くなるようにできています。低めの温度のお風呂に入ってそのあと身体が冷えないうちにすぐ床につくのは、とても良い方法だといわれています。暖かいミルクなどをのんで身体をポカポカさせても同じ効果がえられます。
「眠らなければ!」と思うとさらに眠れなくなります。「一晩や二晩くらい眠らなくっても死なない」「身体を休めているだけで今夜はじゅうぶん」「まあいいっか」などと大きくかまえると、ふしぎに眠れることが多いものです。
D)正しい薬物療法
睡眠をととのえるために処方されるクスリにはいくつかの種類があります。
入眠困難に効果のあるもの
睡眠を深くして中途覚醒を防ぐもの
早朝覚醒なく朝までぐっすり寝るのを助けるもの
それぞれのクスリで副作用もあります。代表的なのは、朝まで持ち越してスッキリしないものや、ふらつきがあります。寝ている間に、せん妄という夢遊病のような症状を起こす場合があります。処方を受けている主治医に相談しましょう。
外来で、「眠れないんです」「ともかくクスリを処方してください」という患者さんをときどき見かけます。そもそも、「眠れない」=「睡眠薬」とすぐに結びつけるのは誤りです。かえって多くの害を生みだすおそれがあります。
上述の生活習慣や生活リズムを変えたり不眠の原因を取り除いたりしないかぎり、睡眠導入剤を服用しても、やがてどんどん眠れなくなります。
専門家は次のようにいいます。「睡眠導入剤は二種類使って効果がなければ、それ以上追加してもムダです」と。
眠れないつらさはたいへんなものです。しかし、すぐにクスリをと考えるのではなく、自分の生活全体を総合的にみる。そこから取り組んでみてはいかがでしょうか?
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